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「予定通りなら目標が現れる頃だ」
アルバも時間は計っていたらしい。
身体を起こして下を見た。
そこまで高くないビルの屋上。
スコープに捉えられているのは、向かいのビルの出入り口に止まっている、車の助手席だった。
「思ったよりも暗くなるな。見えるのか?」
「街灯がある」
「あの光だけで?」
スコープから目を離して、アルバが指差していた方角を見る。
車から三十メートルほど離れた先にある一つの街灯。
「あれで十分だ」
今はビルの出入り口の明かりも点いているため、確認はとてもしやすい。
まだ車の助手席には誰も乗っていない。
ここに人が乗り込む時には、ビルの電気は消えていると聞いた。
「それに、既に確認は終わっている」
面白いと言いたげなアルバの顔が視界に入ってきた。
「ロセアによく似ているな」
「……もう、ロセアの話は終わりだ」
簡単に言うなら、不愉快だった。
母親と自分は同じではないのに、まるで同じもののように言われる。
ましてや、会ったことも見たこともない、母親と聞いているだけの人と似ているだなんて。
自分を一目見た人は皆、「ロセアによく似ている」という。
まず、容姿が似ているらしい。
ロセアはスパイだったため変装もよくしており、皆が知っている姿が本当の姿とも言えないのだが、とにかく似ているらしい。
次に、銃の扱い方が似ていると言う。
銃を取り出してセットしている時や、確認する仕草、そして撃ち方がそっくりだと言うのだ。
「ロセアに教えてもらったのか?」と聞かれるが何も答えない。
ロセアからは教えてもらっていないし、そのことを伝える必要性もないだろう。
ただ、皆が「ロセアとは違う」と言うところももちろんある。
ロセアはスパイをやっていたこともあり、コミュニケーションを取るのが上手かったという。
相手の懐に入り込み、特別な存在になるのが得意だったそうだ。
その話を聞くと、自分にはとても無理な仕事だと感じる。
「予定通りだ」
アルバの声に我に返った。
ビルの電気が消える。
思考を止めて、車に集中した。
「出てくるぞ」
「静かに」
声は雑音になる。
集中力が削がれるためアルバを黙らせた。
混乱する人々の声がする。
銃声が一つ二つ聞こえた。
発砲したらしい。
咄嗟に時計を見た。
二十二時三十七分三秒。
車のエンジンがかかった音がした。
見れば丁度、助手席のドアを開けて人が乗り込んだところ。
逃がしてはいけない。
素早く銃を構えた。
スコープ越しにその人物を見て、息が止まる。
この人は。
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