アンダーグラウンド

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引き金にかけていた指が震えた。 自分らしくない。 どうして、こんなに躊躇うんだ。 「シアネア」 「分かっている」 アルバに答えたと言うよりも、自分のための独り言だった。 運転席にいる人がアクセルを踏み、車が動き出す直前に引き金を引いた。 サプレッサーを付けていたとはいえ、それなりの銃声が響いた。 弾はそのまま狙い通り軌道を描き、座っていた人物の頭を撃ち抜いた。 ほお、と感嘆したアルバ。 「うん、見事だな。さすがシアネアだ、聞いていた通りだ」 答える必要はない、と判断した。 撃った反動で後ろに飛ばされていたが、立ち上がって服についた汚れを払う。 早く撤退した方がいい。 自分が撃ったのは三十七分四十二秒だが、その三十九秒前に銃声はしている。 警官が聞きつけていれば、その分到着するのも早い。 「ところで。さっき言った、飯の話は」 「飯?」 そういえば、ぼそぼそとそんなことを言っていたような。 「ここを去ってから決める」 手際よく銃を片付け、隣のビルに跳ぼうと柵に手をかける。 「跳ぶのか」 「アルバはどうするんだ」 「シアネアが跳ぶなら跳ぶ。年は取ってるが、衰えている訳ではないからな」 ふーん、と柵を乗り越えた。 ビルとビルの間は一メートルほど。 先に銃が入ったカバンを投げ、自分も跳ぶ。 移った先の柵に掴まり、半分乗り越えたところでアルバも跳んだ。 その時、銃声が聞こえた。 「何っ?」 銃声がした方向を探る。 今の音だと。 アルバはギリギリのところで柵にしがみ付いたが、左手で左足を押さえている。 右手だけでぶら下がっている状態だ。 「撃たれたか」 「掠った。出血はしているが大したものではない」 走り去って行く車の音がした。 目標が乗っていた車とはまた違う。 こちらを狙って撃ったものらしい。 「掴まれ」 少し迷ったが、右手をアルバに伸ばした。 「だが」 「逃げるのが先だ。急ぐぞ」 それを聞いて、アルバは左手を伸ばして右手首を掴んだ。 思った通り、やはり重い。 「合図で壁を蹴れ。受け身を忘れるな」 「あぁ、分かった」 せーの、とアルバが右足で壁を蹴ったと同時に、空いていた左手を支点に柵から飛び下りる。 右手を出来るだけ回して、アルバの身体を浮かせた。 屋上に二人して転がる。 アルバが落ちることは避けられたようだ。 「助かった」 「早く止血しろ」 ほっとため息をついているアルバを叱る。 ポケットからナイフを取り出し、自分のズボンの裾を切り裂くとアルバに投げた。 「礼を言う。シアネアがそこまでしてくれるとは珍しいな」 「無駄口を叩く暇なんてない」 こちらを狙撃してきた相手が、まだ近くに残っているかもしれない。 辺りに注意を払いながら、銃の入ったカバンを隅に寄せる。 「シアネアを狙うものは多いからな。ロセアのこともあったし」 アルバの言葉に唇を噛む。 そんなことは自分が一番分かっているのだ。 止血を終えたアルバが立ち上がる。 「少し痛むが、このぐらいなら平気だろう」 「なら行くぞ」
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