アンダーグラウンド

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今まで取ったことのなかった帽子を脱ぎ、一気に階段を飛び下りた。 「なんだ……女だぞ」 「シアネアは男じゃないのか?」 またざわつき始めた。 思った通り、人数は十人だ。 これならいける。 にやりと小さく笑い、頭を振って長い黒髪を整える。 暗闇の中でも艶やかな光を放っていた。 「私はシアネアではないよ。何か人違いをしていないか?」 「じゃ、じゃあお前は誰だ? あんな腕を持つスナイパーなんて、この辺りじゃシアネアしかいない」 「本当にそうかな?」 『男のシアネア』だった女は、身軽に舞って一人の男を蹴飛ばした。 男は壁際まで転がり、女を化け物でも見ているかのような目で見た。 当の女は気にした風もなく、拾った拳銃を片手に飄々としている。 「シアネアに今日仕事を依頼した組織って、君らか?」 「あぁ……車の助手席に乗る者を殺せと言ったな」 「人物の名を、シアネアには伝えたか? 誰を殺すのか、シアネアは本当に分かっていたのか?」 「それは、いつもシアネアは人の名を気にかけないから」 女が眉間にしわを寄せた。 「プルプレアだったんじゃないのか」 女が放ったその名に、男が息を呑む。 「さすがのシアネアでも覚えているはずの名だ。シアネアの父親なんだからな」 「な、何故プルプレアがシアネアの父親だと」 知らないとでも思っていたのか。 女は嘲笑を浮かべた。 これだから、闇社会は。 「『ロセアの噂』は知っているよ。プルプレアが殺したという噂はね」 「お、お前は一体誰なんだ!」 動揺している男の様子を見て、ふっと笑う。 「私はグラウクス。シアネアの()()()とでも言ったらいいかな」 場の空気は完全に、この『女のグラウクス』が握っていた。 「別人格? 何故そんな、シアネアが二重人格者だなんて聞いたことも」 「ないだろうな。私がこの身体の本来の人格だったのを、シアネアが乗っ取ったのだから。仕事を始めた頃にはシアネアが身体を支配していたから、私が出てきたことなど一度もない」 意味が分からなかったらしい。 男は怪訝そうな顔でグラウクスを見ている。 「私は女だ。身体も女だ。違うのはシアネア、あいつだけだ。シアネアだけは男だ」 「どういうことだ」 「闇社会で仕事をするには、女だと何かと不便が多い。それは私も分かっていた。ロセアは結局、女だったことが一番の原因で死んだ」 私を産んだから死んだんだ、と言うグラウクス。 「それはそうだが……何故、プルプレアがシアネアの父親だと」 「だから、『ロセアの噂』は知っていると言っただろう。あの話と、私が一致している部分があるから」
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