まさかの御曹司

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 部屋に入ってベッドに腰掛けた。そんなに疲れている訳じゃない。  結婚……。蓮と結婚するのかな。二十七歳にもなって実感が湧かないのは何故なんだろう。  高校時代は小説ばかり書いていて男の子には、あまり興味がなかった。寧ろ自分の書く小説の主人公に恋心を抱いてたりして。  大学時代、ボーイフレンドくらいは居たけれどグループ交際? 特別に意識したものではなかった。  私の中で結婚は具体性など持たぬまま……。  仕事に没頭していた訳じゃなく仕事と共に年月だけが過ぎて行った。  元々、好きで入った出版社。美容雑誌だったけど連載小説を担当させてもらって、有名な作家さんと親しくさせていただいて、仕事にはそれなりに満足している。  何よりも、あんな就職氷河期に、ちゃんと就職出来ただけでも感謝すべきだと思う。しかも希望の業界に……。  この仕事をしていたから蓮と出会った。それも確かだし。縁があったということだったのかな。そんな事を考えながら眠ることにした。  おやすみなさい。蓮。あったかいお布団に包まれて幸せな気持ちで眠りに就いた。  どれだけ眠ったのだろうか? 夜中なのか明け方なのか寒さに目が覚めた。眠った時は、あんなにあったかかったのに……。  なんとなく気になってリビングに行ってみた。  暖炉は赤々と燃えている。  ということは蓮がずっと薪を焼べていたの?   近付くとラグの上で蓮が横になっていた。隣に座って、そっと揺り起こしてみる。 「蓮? 眠ってるの? 蓮、ねぇ、起きて、蓮……」  蓮は目を覚まさない……。  もしかして一酸化炭素中毒? そんなぁ……。 「蓮、目を覚ましてよ。蓮、蓮、死んじゃ嫌~~っ!!」 「う~ん? 碧? どうしたの?」  目をこすりながら、まだ眠そうな蓮が言った。 「碧。何で泣いてるの?」 「だって……。蓮が一酸化炭素中毒で死んじゃったのかと思ったから……」  涙が止まらなくなってしまった……。 「バカだなぁ。僕が死ぬ訳ないだろう。暖炉には煙突があるの。定期的に、ちゃんと専門の業者さんに掃除もしてもらってるし。一酸化炭素中毒? だったら碧もこの部屋に入ってすぐ気を失ってるよ。いや、もしかしたら部屋で眠ったまま死んでるかもだよ」  蓮は笑顔でそう言った。 「そう……よね。ごめん。だって……蓮が死んじゃったらどうしよう。私、まだ蓮に言ってないことがあったから……」 「何? 言ってないことって」 「蓮……。愛してる」  生まれて初めて言った。 「何だ。そんなことか、もう知ってるよ」 「蓮のバカ……」  まったく自信過剰なんだから……。 「ところで碧の膝枕、すごく気持ちいいよ」  そう言って笑ってる蓮の頭を膝に乗せて座り込んでる私。 「碧……。おいで……」  起き上がった蓮に 「えっ?」  いつの間にか私は蓮の顔を下から見上げている。目の前で蓮が優しく、でも真剣な顔をして 「嫌だったら言って。碧の嫌がることはしないから」  おでこにキスされて髪を撫でられて目を閉じた瞼にキスされて、頬、そして唇。熱くて、やわらかくて優しくて……。  そして初めての激しい蓮のキスを受けながら蓮の全てになりたいと願っている私が居た。  まだ夜明け前、赤々と燃える暖炉。蓮と私は初めて素肌を許し合った。蓮の腕に包まれて涙が零れた。 「碧……。もしかして初めてだったの」 「二十七歳にもなって初めてじゃあ、可笑しい?」 「そんなことないよ。嬉しいよ。碧は生涯僕だけのものだから。最高に綺麗だよ」  蓮の全てで優しく包み込まれて幸せだった。 「碧……。愛してるよ」 「蓮……。私も」  天窓から見える空が少しずつ明るい色に変っていく。ソファーに置いてあった毛布一枚に包まれて生まれたままの蓮と私は抱き合って眠った。  目が覚めた時には、すっかり明るくなっていた。蓮はまだ眠っている。昨夜ほとんど眠っていないのかもしれない。  蓮の唇にキスした。起きない。もう一度キス。やっぱり起きない。三度目のキスをしようとして笑っている蓮に形勢逆転……。  両腕を押さえられて動けなくなった私は蓮にされるがまま……。思わず甘い声が漏れてしまう。止められない。 「蓮……。ダメ……」 「何がダメなの? 言ってみて」 「いじわる……」  別荘での二日間。蓮との愛を確かめ合って……。蓮の作る料理を楽しんで……。  こんなにも幸せな時間が存在することが信じられないくらいだった……。
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