犯罪者

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 そういうわけで、当然の如く何処に行っても私の――凶悪殺人犯の血縁者たる私の居場所などなく。悪事千里を走る――そんな故事はどうやら正しかったらしく、何処に行っても私の存在は知れ渡っていた。村一番の有名人さえ真っ青なほどに、この村において私の存在を知らない人などいなくて。  ……いや、居場所がないだけならまだいい。いいのだけど……何処に言っても私に向けられるは誹謗中傷、更には石を投げつけられることも屡々で―― 「……はぁ、はぁ……」  ともかく、疲労困憊の身体を引き摺り走る。そんな私の出来ることは――とにかく、逃げること。何処でもいい、どんなに不便な所でもいい……とにかく、誰もいない所に――  ……それで、どうするの? その後、どうにか命からがら生き延びて……それで? 私は、誰のために生きるの? いや、そもそも今までだって、生きてる理由なんてあったの? 仮に……もし仮に、(むご)いという言葉ですら足りないあの事件を父が起こさなかったとして……私は、幸せだった?   ……ううん、答えは否。考えるまでもなく、否。ただ、今とは違う種の苦痛があっただけ。だったら……うん、もはや何処で息絶えても構わない。なんなら、今ここでだって――  
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