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ボクのために泣かないで
「しばらく吐いたりお腹をこわしたりして元気がなくなるかもしれない」
獣医さんはそう言った。その通りだった。
ボクはケイ君のお家に帰って吐いたし、お腹もこわした。でもそのお陰で悪い虫は全部ボクの体から出て行ってくれたけど、とっても気分が悪かった。
ボクは、あんなに美味しくてたくさん食べていたケイ君がくれるご飯もぜんぜん食べられなくなった。
その日の夜もケイ君は、ご飯をくれたけど食べたくなかった。
そしてお日さまが顔を出して朝が来た。ボクは、やっぱり食べられない。
ケイ君は「早く元気になれよ。いってきます」と出かけて行った。
ケイ君が出かけて少ししてからボクは、なんだか息が苦しくなった。
胸もドキドキしてきた。ボクはケイ君の作ってくれたお家に寝ころんだ。
そして……そのまま……ボクはボクの体から抜け出した。
ボクは……死んだんだ。
でも、ボクは知ってるよ。
お父さんが、もうボクが息をしていないことに気付いてケイ君にすぐメールを入れてくれたこと。
ボクは知ってるよ。
ケイ君は急いで帰って来てくれてボクの体を撫でながらいっぱいいっぱい泣いてくれたこと。
ボクは知ってるよ。
ケイ君が泣いてる傍で、お父さんも泣いてくれたこと。
猫が苦手なお母さんが、お家の中から早く元気になってねってずっと祈ってくれてたこと。
朝と夜遅くしか会えなかったお兄さんもボクのこと心配してくれてたこと。
ボクはケイ君と出会えて、とってもとっても幸せだったからね。
おばあちゃんといた時のような、あったかい気持ちをいっぱい感じた。
あの日……。
もしもケイ君と出会っていなかったらボクはきっと誰にも知られることもなく、ひとりぼっちで天国に旅立っていたんだ。
ケイ君が、もう一度ボクに元気をくれたんだ。
お日さまがいっぱいのあったかい時間をくれたんだ。
だからもうボクのために泣かないで。
楽しそうに笑ってるケイ君がボクは大好きだったから。
もうボクは行かなくちゃ……。
お日さまの見える、あの空のう~んと上から、いつもケイ君を見てるからね。
ケイ君に、いっぱいいっぱい可愛がってもらったことボクは忘れないからね。
ずっとずっといつまでも……。
ありがとうケイ君。そして、さようなら。
~ おわり ~
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