ボクは猫

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ボクは猫

 ボクは猫。何歳なのかは知らない。  気が付いたら、やさしいおばあちゃんのお家の庭で暮らしていた。  縁側のガラス戸を開けて、おばあちゃんは、いつもボクに美味しいご飯をくれた。 「ボク、ご飯よ。いらっしゃい」と。  ボクは、おばあちゃんの足に擦り寄って大好きなおばあちゃんに甘える。するとおばあちゃんはボクをやさしく撫でてくれる。  暖かい陽だまりの中で、ボクはとっても幸せだった。  ある日、いつものご飯の時間になっても、おばあちゃんは出て来てくれない。  どうしたんだろう。ボクは心配で心配で、ずっとおばあちゃんを待っていた。  次の日、おばあちゃんの娘さんが具合の悪くなったおばあちゃんを車で病院に連れて行った。  ボクは、ひとりぼっちになった。  何日待っても、おばあちゃんは帰って来ない。  ボクは、おばあちゃんを探しに行くことにした。  大好きなおばあちゃんの匂いは、よく分かってる。  とにかくボクは、おばあちゃんの匂いを頼りに歩き出した。  何日も何日も歩いて歩き疲れて、お腹も空いていたし、ボクはもう一歩も歩けなくなっていた。  周りを見るとおばあちゃんのお家のような庭のある家がたくさんあった。  朝夕、ボクの苦手な犬を連れてお散歩する人たちがたくさんいた。  ボクはとてもお腹が空いて誰かに甘えたかった。  けれども犬を連れた人たちはボクを見ても何も言ってはくれなかった。  きっとノラ猫だと思われて誰もかまってくれないんだと思った。  かまってくれないだけなら、まだ良かった。  物を投げつけられたり、リードの着いた犬に追いかけられたりした。  もうボクは帰りたくても大好きなおばあちゃんのお家もどっちへ行けばいいのか分からなくなってしまった。  おばあちゃんのお家でずっとおばあちゃんの帰りを待っていれば良かった。  暖かな草の上の陽だまりでお昼寝をしながら……。  そう思ったけどボクにはもうどうしようもなかった。  その時、ボクが犬の次に苦手な車が走って来た。  中から降りて来たのは、やさしそうなお兄さんとお姉さん。  楽しそうに笑いながら話をしていた。  ボクは最後のチャンスに賭けてみようと思った。  お兄さんもお姉さんもボクに気付いてくれた。 「ノラなのかなぁ?」とボクを見てお兄さんが言った。 「おいで」とお姉さんは、しゃがんでボクを呼んでくれた。  ボクは本当に、すごく嬉しかった。  ボクに向かって何かを言ってくれたのは、おばあちゃんのお家を出て来てから初めてだったから……。
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