第二話 真帆と数学

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<早川先生と夏休み> 考査週間が無事終了し、答案用紙の返却まで済んだ。 そんなある日の放課後。 私はまた、数学科準備室に居た。 「……………」 「ふふ、お待ちしておりました」 私を呼び出した張本人(ちょうほんにん)は微笑みながらプリントの用意をしている。 「またここに来てしまいました」 「想定内ですよ」 29点。今回の数学は29点だった。あと1点で赤点回避できたのに!! 惜しかったなぁ…。 「藤原さん、今日からまた補習をしましょうね。そして…」 「そして?」 「期末は再試をやりません」 「え、本当ですか!」 やった! 再試が無いのは嬉し過ぎる。補習さえ頑張れば良いのか! 「その代わり」 「ん?」 「夏休み、毎日補習をします」 「…え?」 早川先生は少しずれた眼鏡を直す。 …え? 夏休み毎日? びっくりし過ぎて口が(ふさ)がらない。 この人、正気(しょうき)!? 「ちょっと、先生! 私の夏休みを全部数学で埋める気ですか!?」 「はい。藤原さんは帰宅部だし。僕も部活を持っていませんので。丁度良いと思いませんか?」 はい、じゃないよ!!! 何言っているの。私の夏休みは!? 「藤原さん、不本意(ふほんい)かもしれません。しかし、前にも言いましたが、藤原さんは理解に時間が掛かります。1学期の復習をして、2学期の予習まで出来たら良いと思いませんか? 僕は、数学で藤原さんが苦しまないようになって欲しいのです」 まぁ、補習をしても赤点を回避できると思いませんが。と付け足した。 早川先生は凄く私のことを考えてくれている。 悪く言えば、大きなお世話だが。…そんなこと言えない。 「…分かりました。高校は義務教育ではないのに、ありがとうございます」 「いえ、僕の勝手ですから」 私の机の上にプリントの束を置いて、先生も席に着いた。 「藤原さんは、数学以外の成績はかなり良いみたいですから、数学で足を引っ張って欲しくないのです。まだ1年生だから実感が沸かないかもしれませんが、進学にしても就職にしても、何するにしても成績が付いて回るのです」 確かに…。実は中間も期末も数学だけ赤点だったが、それ以外の科目は全て90点以上だった。 我ながら極端(きょくたん)すぎて呆れる。 「だから、頑張りましょう。補習は嫌かもしれませんが、楽しい夏休みにしましょう」 そう言って優しく笑ってくれた。
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