第三話 2人の数学教師

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翌日の昼休み、やっと有紗と過ごせる時間が来た。 「さて、やっと真帆とゆっくり話せる」 「昨日は本当にごめんね」 「謝るのは禁止! でも今日は昨日よりいい顔している!」 死にそうな顔をして、有紗に伊東と早川先生の話をしたのって昨日の昼休みのことだったのか。あまりにも濃すぎる時間を過ごしたせいで、昨日のことが凄く遠い昔のように感じる。 「昨日結局、保健室行かなかったの。行ったところでどうにもならないからさ。空き教室の棟の廊下にいたの。人来ないからさ、普通は」 有紗はふんふんと頷きながら話を聞いてくれる。 「なのにね。廊下に座り込んでいたら空き教室の鍵を持った伊東が来たの。伊東は授業が無くて考え事したいときに、空き教室に来るんだって」 「…そんなことある?」 「ねー、おかしいよね。で、ここでサボっていたことは黙っておく。その代わり、話を聞いてって脅されたから素直に部屋の中に入ってね。そこで色んな話をしたよ。今までのことも謝ってもらった。これまでの発言とか態度。そして…」 そして…。そこで言葉が詰まった。 有紗は背中をポンポンしてくれる。私は声を絞り出すように小声で言った。 「……気になるんだって、私のこと。生徒としてじゃなくて、女性として」 「えぇ!!!!」 有紗はポンポンしていた流れで私の背中をバシーンと叩いた。痛い!!! 「ほら、やっぱり! 伊東先生、好きな子ほどイジメたくなるタイプだと思っていたけど。やっぱりそうなんだ!」 ドキドキする~!! と大騒ぎし始めた。 「ちょっと有紗、絶対誰にも言わないでよ」 「当たり前! 私と真帆の仲じゃない! いやぁ…でも、やばい。私とても興奮しているよ! 付き合ったら?」 感情が抑えきれないのか、立ち上がってジャンプし始めた。ニコニコと楽しそうな有紗。まぁ、そうか。私が伊東に一目惚れしていたから、両思いになれる可能性があるということか? …そもそも私は、まだ伊東の事が好きかどうか分からないけれど。 (いや)な思いをさせられて(きら)いとまで思ったけど、それでも手が触れてドキドキするとか…自分の感情が全く分からない。 「…で? これからどうなるの」 「どうも無いでしょ。別に好きだと言われたわけでもないし」 「あぁ、まぁそうか…」 有紗は落ち着きを取り戻してベンチに座る。私はミルクティーを飲みながら遠くを見た。 鳥の群れが青い空の下を飛んでいる。 「また話しかけても良いかって聞かれたから、良いって答えた。これからかな。何かあるとも限らないけど」 「ふふ、楽しみだね」 「そうかな?」 とか言いつつ。楽しみな感情が全く無いというわけでもなかった。 最近の私は本当にどうかしている。 「ところでさ、最近有紗の方はどうなの?」 「青見先輩とのこと?」 「それ以外ないでしょ」 有紗は目を輝かせて話し始めた。 最近私のことばかりで有紗の話を聞いていなかったと少し反省をする。 「全国大会までやっぱりデートとか無いんだけど、登下校の時に手を繋いで歩くのが嬉しくて! 少し買い食いしてみたり…公園に寄り道したり? デートが出来ない分、そうやって楽しんでいるの」 何か、恋している女の子って感じ。有紗、キラキラしているよ。 「青見先輩の全国大会っていつなの?」 「来年の2月! あと5ヶ月くらいデート出来ないけど…! それでも、青見先輩が全国大会で結果を残すためなら、私は何だって我慢できる!」 そう言いながら元気よくガッツポーズをした。 5ヶ月か…。私の感覚だと凄く長く感じるけど、それが有紗の幸せならそれも良いのかな…。 「有紗が嬉しそうで私も嬉しい。初めての恋、上手く行くといいね」 「ありがとう! 本当ありがとう真帆~!!」 2人で顔を見合わせて、笑いながら抱き合った。
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