第三話 2人の数学教師

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放課後は変わらず数学の補習。 そういえば、今回の補習のエンドが決まって無いなぁ…。 補習が始まったのは良いものの、終わりが見えない。 「失礼します」 「はーい」 「…え」 返って来た声は、伊東だった。 「こんにちは。早川先生はご不在ですか?」 「はぁ…俺が目の前にいるのに、早川先生の名前を出すの?」 ………ん? 意味が全く分からない。そして何故かニヤニヤしている。 「いや、全く意味が分からないです。今日も早川先生の補習を受けに来たのですから」 「ふははは、知っているよ」 「早川先生は担任しているクラスの生徒と急遽面談。何か色々大変みたいよ」 「…そうですか」 早川先生がいないなら帰る一択だ。 「藤原が来たら今日は帰らすようにと言われているんだけどさ。……少し、お茶していかない?」 「え、お茶?」 伊東は顔を小さく掻きながら提案してきた。 どういうこと? 何で伊東とお茶しないといけないのか。 「いやいや、他の先生や生徒に見られたらどうするんですか」 生徒に見つかるのも面倒だけど。 早川先生にその光景を見られたら説明しにくいし、面倒だ。 そう思い、気付く。 何故私は、早川先生に見られることを心配しているのだろうか? 「うーん、まぁ。そうね。ははっ」 「ははっ、じゃないですよ!」 伊東は笑いながら自分の机から棒付きキャンディーを取った。 「じゃあ、これ持って帰って」 「棒付きキャンディー…」 初めて貰った時のキャンディーと同じ種類。 伊東の机を見ると、ペン立ての中にカラフルなキャンディーがびっしり立てられている。 ペン立てならぬ、キャンディー立て。 「本当に好きなんですね。…ありがとうございます。頂きます」 「へへっ。何か俺さ、藤原に会話して貰えているのが嬉しくて。…ガキみたいだな」 伊東は夕日が差し込む窓へ顔を向ける。 光が当たった伊東の瞳は、少しだけ潤んで見えた。 「………」 私はそんな伊東に対して、何も答えることが出来なかった。 「ほら、今日は早く帰りな。補習続きで早く帰れて無かっただろう」 「確かに…」 「折角の帰宅部なのに可哀想。もうこの際、数学補習部でも作る? 勿論(もちろん)、顧問は俺だけど」 数学補習部? 何そのふざけた部活は。 「え。そんなの絶対嫌です。死ぬほど嫌」 「部員は藤原だけだから良いじゃないか。補習さえ受ければ何しても自由」 そういう問題? ポカンと固まっていると、まぁ部員が1人じゃ部としては全く成り立たないけどね。と付け足して笑った。 「じゃあ、気を付けて帰りなよ」 「…はい。失礼します」 一礼をして数学科準備室を出る。 伊東は私が廊下の角を曲がるまで、ずっと立ってこちらを見ていた。  
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