第二話 真帆と数学

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5月も中頃。日に日に暑さが増してくる中。  高校生になって初めての中間考査の時期が来た。 基本的に勉強は嫌いだけど、数学以外は良い点数が取ることができる。 そう、数学以外は良い点数なのだ。 考査期間が終わってすぐの授業で次々とテストが返却される。 どの科目も90点以上で高校生活の幸先は良かったのだが…。 最後の返却となった数学は正直自信が無い。 「藤原さん、あと一歩です」 先生から手渡しで答案を受け取り、チラッと覗くように見る。 点数は…21点。 うちの高校では30点以下は赤点と決められている。 つまり、赤点だ。 「はぁ…」 流石に赤点はないと思っていたのだけれども。現実は甘くない。 というか、さっき先生が言った “もう一歩” ってどういう意味!? 一歩どころか全然足りないよ! 「ははは、真帆は相変わらずだね。やっぱり数学だけダメなんだ」 私の左後ろの席に座っている有紗。後ろからテストを覗き見していた。 「見ないでよ~」 「いいじゃん、私だから!」 「そういう問題じゃないけど…。ていうかさぁ! 数学なんかこの世から無くなれば良いのにね」 中学の頃から数学だけは異様に点数が低い。だから今回も点数が低いのは分かっていた。 ただ何度も何度も言うが、赤点は想定外だが。 先生は全員に答案を返却し終えたみたい。教室がザワザワしている中、先生は私の方へ近寄ってくる。 「?」 きょとんとしていると、先生は私の机をトントンッと指で叩いて、小声で話しかけて来た。 「藤原さん。今日から補習をします。放課後に数学科準備室へ来てくださいね」 「え? 補習?」  数学担当の早川(はやかわ)裕哉(ゆうや)先生。サラサラそうな前髪を七三分けにして、銀縁の楕円(だえん)メガネをかけている。 授業中はいつも白衣を着ていて、見た目は若そうな感じなのに七三分けが残念な人。 「赤点取った人は補習を行うルールです」 「他の科目で聞いたこと無いですけど…」 「数学だけです」 「えぇ」 数学だけ補習するってどういうこと。 何でよりによって唯一苦手な数学だけ補習があるのか…。 「では、放課後お待ちしておりますね」 「…はい」 早川先生は私の返事を聞いて口角を上げながら教壇へ戻って行った。席を立っていた有紗が私の肩を叩く。 「真帆、ドンマイ。とかいう私も決して良くないけど!」 有紗はテストを見せてくれた。42点と書いてある。 「いや…私の倍あるじゃない」 「へへっ! それでも点数が低いには変わりないから!」 42点は高い点数だよ、私の中では。 その後の私は頭の中で補習の事がグルグル回って、テスト返却後の解説は一切頭に入って来なかった。        
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