第二話 真帆と数学

5/14
前へ
/91ページ
次へ
翌日、教室に行くと朝練を終えた有紗が居た。 「真帆、おはよぉ。昨日は補習お疲れ!」 「おはよ。ありがとう」 家帰ってから伊東先生のことばかり考えすぎて、正直寝不足だ。 本当にしょうもない。 「…真帆、全然元気ないじゃん。どうしたの?」 「いや、補習がねぇ~…」 もう帰りたい。今来たばかりなのに、もうそんなこと考えている。 「なにそれ! ちょっと、昼休みに詳しく聞かせてもらうからね」 事情聴取だ!! そう言って有紗は大笑いした。 昼休み、私たちはいつも通り中庭へ向かった。 今日のランチはおにぎり。有紗は菓子パンを食べている。 「まずね、数学で赤点を取った生徒は全学年で私だけらしいよ。補習、独りぼっちだったの」 「えぇ! それって…早川先生とマンツーマンってこと!?」 「まぁそうなるね」 有紗はキャーっとわざとらしく両手で頬を抑える。 「どういう反応? 補習以外何も無いけど」 「2人きりだなんて、真帆惚れちゃうじゃん~!!!」 「え? 早川先生に?」 何で私が先生と2人きりになるとその相手に惚れてしまう前提なのか。 早川先生は全く眼中に無い。 「有紗…違うの。そもそも2人きりでは無いし、早川先生はどうでもいいの。この補習の問題点は伊東先生の方なの」 「え、伊東先生!?」 私はおにぎりを(かじ)りながら言葉を継ぐ。 「まぁ聞いて」 伊東先生と初めて会って馬鹿にされたことを話した。 「それで終わった後、何かまた話しかけられて。初対面だったのにもう呼び捨てよ。けれどその後、さっき馬鹿にしたお詫びっていうことでキャンディーくれてさぁ。意味分からなくない?」 同情してくれるかと思っていた。 だが、有紗の反応はどうも違うようだ。 「何それ…! 胸キュン…!」 「どこがよ!!」 どう考えても馬鹿にされているだけで、胸キュン要素なんて無いよ。  …とは言え。 「最初イラっとしたのに、キャンディー貰った後、何だか胸の中が温かい感じがして…不思議だったんだよね…」 「真帆、それは恋だよ!」 「え、恋!? だから、絶対違うって!」 この感情は『恋』の一言で片付けるには、少し複雑な感じがする。 恋と苛立ちは結び付かないし。 何だろう…この感情は何と呼ぶのだろう。 「かっこいいと思って伊東先生を眺めていたけれど、何だか私の中で印象が変わった感じがするんだよね」 「これから本当の先生を知って、それが恋に変わっていくんだ…」 「いや、変わんないよ!?」  両手を組んで頷いている有紗。…楽しんでいるな。完全に。  こっちは苦しい思いをしているというのに…! 「ていうか、何で数学科準備室に伊東先生が居るの?」 「ね! それ私も何故って思ったんだけど。数学教師だったんだよ、伊東先生」 「…あぁ! そう言えばそうだったね。忘れていたわ」 伊東先生、やっぱり数学のイメージが無さすぎる。可哀想に。     
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加