見えない明日が来るならば

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 ***  ちりり、と鼻先に小さな違和感を覚えたような気がした。夢の中、あるいは眠りから覚める瞬間に何かの境界線を飛び越えたかのような。 「ん、んん……」  ゆっくりと体を起こし、窓へと手を伸ばす。  カーテンを開けた時、眩しい日差しが射し込んでくると気持ちが良いものだ。  ましてやそれが、長雨の後だとわかったら尚更に。 「わお!」  エリーは思わず声を上げて、窓にとびついた。まだ空に少し雲は残っているが、雲間から差し込む光が美しく、庭の濡れた草木をキラキラと輝かせている。窓を濡らす雫も、まるでガラス玉のように光っていた。  久しぶりに見える青い空、そして天使の梯子。日めくりカレンダーを捲った――今日は、七月十日。  嬉しくなって、エリーはパジャマのまま部屋を飛び出したのだった。 「お母さんお母さん、天気予報当たったよ!」 「おはようエリー。嬉しそうね」 「そりゃもう!」  お母さんはキッチンで目玉焼きを焼いている。トースターからも、パンが焼けるいい匂いがしていた。  カーテンを開け放ったリビング。昨日までとうってかわって、家の中全体が明るいように見える。既にスーツを着たお父さんが、テーブルを拭いたりコップを並べたりということをしていた。 「お父さんおはよう」 「おはようエリー。ご機嫌だな」 「うん!これなら、今日は久しぶりに友達と遊べそうだし。最近はドッジボールもできなかったんだよね。校庭、使えるといいんだけど」  あれ?とエリーはそこまで喋ったところで首を傾げた。なんだろう、妙な感覚がある。この会話、前にもどこかで見たことがあるような。 「おはようエリー。おいお前、まだパジャマか。早く着替えないと遅刻するぞ」  兄のレインが、二階から降りてくる足音。彼はもう制服に着替えているし、髪の毛も整えているのだろう、となぜか確信に近く思った。  案の定。エリーと違っても身支度を済ませている彼がそこにいる。 「雨が上がってテンションマックスか。わかりやすいなオマエは」 「兄貴うっさい。そっちだってご機嫌なくせに」 「まーな。久しぶりに部活できそうで嬉しいぜ」  おかしい。 「そうね、今日は二人とも好きなだけ遊んできていいわ」  何かがおかしい。
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