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おかしい、おかしい、おかしい。
最初は“なんとなく変”と思うくらいだった。しかし十回目に“七月十日”の日めくりカレンダーを捲った時、エリーはもう確信していたのである。
「どういうこと……?」
パジャマ姿で目覚めたエリーの視線の先。窓の向こうには、雨上がりの青空が広がっている。窓は、昨日まで雨が降っていたことを示すように水滴がたくさん付着している。
「何が起きてるの……!」
しかし、エリーの記憶にある限り、もう十日くらいは雨なんて降っていない。そして、自分は十日くらい連続で“七月十日”になる日めくりカレンダーをめくっている。
雨などもう降っていないのに、ずっと雨上がりの景色が続く。そして、家族とも友人とも、同じ会話を繰り返している。
「お父さんおはよう」
「おはようエリー。……あれ、どうしたんだ?せっかく晴れたのに、元気ないな」
「そうよ、エリー。どうしたの?」
エリーが元気に挨拶しなかったことで、リビングの父と母が目を丸くしていた。何も気づいてなかった時のエリーは喜んで二人に、今日晴れて嬉しいこと、を伝えていたはずである。
でも、もうできなかった。おかしいと気づいてしまったからだ――この世界が。
「おはようエリー。おいお前、まだパジャマか。早く着替えないと遅刻するぞ。……どうしたんだよ、オバケでも見た顔して」
階段を降りてきた兄も、リビングの奇妙な雰囲気に気付いたのだろう。彼等はまだ気づいてない、知らない。ひょっとしたらその方が幸せなのかもしれないけれど。
「……繰り返してるの」
信じて貰えるかはわからない。それでも、言わないわけにはいかなかった。
「く、繰り返してるの……七月十日を!雨上がりの日を!なんで?わ、私、私の記憶じゃもう十回くらい七月十日が来てる……!」
「はあ?」
「本当なの、信じてお父さんお母さんお兄ちゃん!変なの、これ絶対変なの……!今日の未明からまた雨が降るって言ってるのに、私の記憶じゃこの雨は降らないの。だって、十一日が来ないんだから。だから……!」
段々と自分でも、脈絡がなくなってしまった。どうやら、彼等にはまだ理解ができなかったらしい。気づいているのも、自覚できるのもエリーだけだというのだろうか。しまいには優しく“疲れているだろうから学校を休んだら”と言われてしまった。
そういうわけにもいかない。学校のみんなの中に、気づいている人がいないかどうか探さなければ。ああ、何かをしていなければ頭がおかしくなりそうだ。
――なんで、こんなことが起きてるの?このまま永遠に、私達は未来に行けないの!?
誰か、誰か、誰か。
この現象に気付いていて、対処法を知っている人はいないのか!
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