見えない明日が来るならば

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「そもそも、なんで世界をループさせたんですか?そのような大それた魔法、女神様だって簡単なことではないはずなのに……」 『…………』  女神様はしばしため息をつくと、駄目ですか、と掠れた声で言った。 『毎日、雨上がりの爽やかで、美しい朝が迎えられるのです。それは、幸せなことではありませんか?』 「幸せでしたよ。初めてその日を体験した時は、本当に嬉しかった。こういう日が毎日続けばいいとさえ思ったよ。でも、違うんです」  ひょっとしたら。エリーも、本当はもっともっとたくさん繰り返していて、気づいていなかっただけなのかもしれない。それこそ本当に繰り返された七月十日は、百回以上であったのかもしれない。エリー自身が気付いていなかったというだけで。でも。 「雨の日があるから。そうじゃない日があるからこそ、雨上がりの虹が新鮮で、美しいものだと思えるんです。天使の梯子も、露に濡れた草木も、青い空も。……私は、それに気づいたんです」  いくらその日が素晴らしくても。その日に永遠にとどまっていては、本当の幸せは見えない。見ることさえできなくなってしまう。  だって自分達の幸せは、未来にだって存在するのだから。 『……わたくしは女神といえど、実際は上位神たちの使い走りにすぎません。彼等が決めたことには逆らえないのです。……七月十一日以降に、この世界の汚染物質を洗い流すためたくさんの雨を降らせる。……そう決めたあの方々の決断を、覆すことはできない。それで、この世界の人々がたくさん亡くなるであろうことを知っていても。できることはただ、十一日、という日が来ないように時間をループさせることだけでした』 「……雨は、長く降るんだね」 『どれくらいの期間かは未定ですが、相当な災害が起きうる量を降らせるつもりであるのは確かです。ひょっとしたら、貴女たちも死ぬかもしれません。貴女たちが望んでいた、バーベキューや、林間学校や、旅行……そういうものができる未来はもう来ないのかもしれないのですよ。それでも、明日を望むというのですか』  彼女なりに、自分達を想ってくれていたのはわかった。それでも、エリーの気持ちは揺るがなかったのである。何故なら。 「怖いけど。でも……明日を作るのは、私達だから」  時計の針は、進まなければ意味がない。  その明日が、不幸なだけのものなんて、決めつける権利は誰にもないのだから。 「だから、お願い」  見えない明日が来るとしても。  それをどんな色で塗り替えるのか。決めるのはいつだって、生きている自分達の意思なのだ。
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