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見えない明日が来るならば
カーテンを開けた時、眩しい日差しが射し込んでくると気持ちが良いものだ。
ましてやそれが、長雨の後だとわかったら尚更に。
「わお!」
エリーは思わず声を上げて、窓にとびついた。まだ空に少し雲は残っているが、雲間から差し込む光が美しく、庭の濡れた草木をキラキラと輝かせている。窓を濡らす雫も、まるでガラス玉のように光っていた。
久しぶりに見える青い空、そして天使の梯子。日めくりカレンダーを捲った――今日は、七月十日。
嬉しくなって、エリーはパジャマのまま部屋を飛び出したのだった。
「お母さんお母さん、天気予報当たったよ!」
「おはようエリー。嬉しそうね」
「そりゃもう!」
お母さんはキッチンで目玉焼きを焼いている。トースターからも、パンが焼けるいい匂いがしていた。
カーテンを開け放ったリビング。昨日までとうってかわって、家の中全体が明るいように見える。既にスーツを着たお父さんが、テーブルを拭いたりコップを並べたりということをしていた。
「お父さんおはよう」
「おはようエリー。ご機嫌だな」
「うん!これなら、今日は久しぶりに友達と遊べそうだし。最近はドッジボールもできなかったんだよね。校庭、使えるといいんだけど」
雨が続いていたせいで、ずっと体育の授業もままならなかったし、もちろんグラウンドで球技なんてできなかったことだ。水たまりでかなり酷いことになってはいるだろうが、それでもドッジボールくらいはできるスペースがあればいいと思う。
お父さんが紅茶を入れてくれたところで、兄のレインが階段を降りてきた。彼はエリーと違ってすっかり制服に着替えているし、髪の毛もばっちり整っている。二階の洗面所で直してきたらしい。
「おはようエリー。おいお前、まだパジャマか。早く着替えないと遅刻するぞ」
彼は呆れたように言った。
「雨が上がってテンションマックスか。わかりやすいなオマエは」
「兄貴うっさい。そっちだってご機嫌なくせに」
「まーな。久しぶりに部活できそうで嬉しいぜ」
エリーは初等部、レインは中等部の学生だった。彼はテニス部に所属している。テニスができるのは外のテニスコートだけ。ずっと屋内で筋トレばかりで退屈だ、と彼は言っていた。本当はだれより嬉しくてたまらないはずだ。
「そうね、今日は二人とも好きなだけ遊んできていいわ」
母がお皿に目玉焼きをよそいながら言う。
「残念ながら、晴れるのは今日までみたい。明日の明け方からまた雨ですって。いくら雨期だからって、こうも長く続くと疲れちゃうわよね」
「ええ、また雨かあ。せっかく上がったのに。……来月の旅行、大丈夫かな。雨期が終わってればいいけど」
「それより俺は林間学校が心配で仕方ねえ。旅行の前の週だからほぼ確実に梅雨明けしてない。いつもならとっくに終わってるはずだってのなー」
「ああ、それは御気の毒……」
雨はこの世界に必要なものだ。わかっていても、憂鬱な気持ちになってしまう。
「晴れにする魔法があればいいのに」
思わず呟いたエリーに、お父さんが苦笑いした。
「残念ながら、人間にそりゃ無理だよ。私達がいくら魔法使いでもな。……それができるのは、女神様だけさ」
この世界は、女神・クリスティーナに守られている。彼女なら、雨期くらい簡単に終わらせられるだろうに。
なんでこんなに雨ばっかり降らすんだ、とエリーは頬を膨らませたのだった。
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