第一話 数学補習同好会の変革

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その後、2組に分かれ数学の勉強が始まった。 私は定位置の生徒机に座り、有紗は応接セットのソファに座る。 有紗も決して得意とは言えない数学。 開始30分くらいで泣き言を漏らし始めた。 「数学イヤ…帰りたい…」 「今日入部して、勉強開始30分しか経ってないよ!!」 「無理だよ~…浅野先生の鬼~」 「鬼じゃなくて天使!」 「どこが!!! もう少し優しく教えてくれないと!!」 「うーん、じゃあ分かった、特別だよ? 今からは小学生に教えるようにお勉強しましょうね~」 「はぁ!? 誰が小学生よ!!」 「的場さんが優しくって言ったじゃない!」 「優しくってそう言うことじゃなくない!?」 私と早川先生は無言で2人のやり取りを見ていた。何というか…お似合いというか…相性が良さそうというか…。 チラッと早川先生の方を見る。 目が合うと、先生は小さく頷いた。多分、同じことを思っているはず。 「良いコンビですね」 「良いですか?」 「多分、このペアは伸びます」 「?」 伸びるって…何が? 早川先生の言っていることが良く分からない。 私は『鳥でも分かる!高校数学②』をペラペラと捲りながら、有紗と浅野先生を横目に見ていた。 それから1時間が経ち、有紗の活動終了時刻になった。 有紗は…脳がショートしていた。 「数学イヤ…数学イヤ…」 「的場さん、よく頑張りました!」 浅野先生は有紗に向かってガッツポーズをする。それに応えるように有紗も小さく真似をした。 「真帆いつもこんなことやっていたなんて…尊敬する…。そして、何でずっと赤点なのか全く意味が分からない…」 「当たり前のように赤点のこと言わないで」 「ふふ、藤原さんの赤点は個性です」 「そんな個性いりません」 早川先生の腕を小さく叩く。有紗はソファにもたれ掛かりながら微笑んでいた。 「じゃあ、私帰るね」 「はい、的場さん。お疲れ様です」 「的場さん、また明日勉強しようね!」 「有紗、今日はありがとう。またね」 各々が見送りの言葉を発し、有紗は笑顔で数学科準備室から出て行った。 有紗の足音が遠ざかると、浅野先生は急にガッツポーズをして声を上げた。 「よっし! 数学補習同好会、初日終了! 嬉しい~放課後も数学を生徒に教えられるなんて嬉しい!!」 その様子を見て思った。浅野先生は、本当に数学が大好きで、教師という仕事が大好きなんだと。 無邪気な笑顔に思わず見惚れる。 「…浅野先生。次、軽音部がお待ちですよ」 「あ、そうですね!! 軽音部もきちんとやらなきゃ!! 早川先生、ありがとうございました! ちょっと行ってきます!!」 そう言って浅野先生も数学科準備室から出て行った。 2人が出て行った部屋には静けさが訪れる。 浅野先生の足音が聞こえなくなると、早川先生は私の頭をチョップした。 「え?」 「…浅野先生のこと、見すぎです」 「……」 不満そうな早川先生の表情。目を細めて、唇を少し噛んでいた。 「ヤキモチ?」 「違います」 「嫉妬?」 「どちらも同じ意味です。…これはきっと、独占欲です」 そう言って私の頭をもう一度チョップした。 しかし…本当に学校で抱き締めたりしなくなった。 伊東の件から早川先生は成長したと…しみじみ思った。
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