第四話 先送りしていた事案

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「はい、始めますよ」 本鈴が鳴ると同時に教室の扉が開き、早川先生が入ってきた。 久しぶりに見た先生の表情は、少しやつれていた。 「起立、気を付け~礼。お願いします~」 「お願いします」 日直の号令で授業が始まる。 早川先生は、一切こちらを見ない。 「テストの返却をします。呼ばれたら取りに来てください」 …ドキドキする。 あれだけ頑張ったのだから。赤点だけは回避したい…。 「ねぇ真帆。先生元気無くない?」 「…うん」 斜め前に座っている有紗は、そっと立ち上がって私に耳打ちする。 「やつれているよ」 「そういうことか。どうしたんだろ、真帆のせい?」 「………さぁ」 「真帆が酷いこと言うから~」 「いや、酷いのは私じゃなくて向こうね」 つい、溜息が漏れる。 そうは言ったものの…私が悪かったのかも。 何だかそんな気がしてきた。 「藤原さん」 「あ、はい」 名前を呼ばれ、答案用紙を受け取りに行く。 「……」 「……」 先生も私も、何も言わない。 「真帆何点?」 「まだ見てない。ちょっと待って」 ゆっくりと答案用紙を開いて点数を確認する。 31点。 「あ…赤点回避…している」 「え、マジ!? おめでとう!!!」 31点。 決して高くはないけれど、赤点を回避したのは私にとって大きな成長だ。 ほら、早川先生!!! 私だってやれば出来るんだから!!!!! そう思いながら先生に視線を送り続けるも、一切こちらを見てくれなかった。 「真帆~本当凄いよ! 尊敬する~」 「そういう有紗は?」 「私は54点! 結構良くない?」 「有紗も点数伸びたね!」 授業が終わり、有紗とお互いを褒め称え合う。 低レベルの点数で喜び合う私と有紗。 だけど私たちにとっては凄いことだから!! 「ところで、同好会は行くの?」 「そりゃ…まぁ、行かないといけないよね」 早川先生と会うことに少し緊張するが…。 有紗と一緒なら大丈夫。 そう思っていたのに。 「因みに今日は私、帰るから!」 「えぇ!?」 有紗の突然の裏切り!!! 「何で、一緒に行こうよ!!」 「今日は空手の開始が早いの!」 そう言う有紗の顔は少し笑っている。 …嘘だ。率直にそう思った。 「浅野先生にも言っとくから、真帆は活動頑張ってね!」 有紗による最大限の気遣い。 早川先生と2人にさせようという考えなのだろうなぁ。 「有紗…」 「ほら、何も言わないこと。…ちゃんと話してきなさい!」 そう言ってガッツポーズをした。 はぁ…有紗には敵わない。 「ありがとう、有紗」 「良いってことよ! 勉強したくないし!」 あ。 最後に笑顔で元も子もないこと言ったよ、この人!! そっちが本音だったか!! けれどまぁ、有紗が入部してくれたおかげで浅野先生の件も落ち着いたし。 本当、感謝しかない。 ありがとう、有紗。 今日はゆっくり頭を休めておくれ…。
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