第四話 先送りしていた事案

11/15
前へ
/94ページ
次へ
今日は1日ベッドの上でゴロゴロと過ごした。 気付けば、時計の針は18時過ぎを指している。  コンコン 「真帆、今大丈夫?」 「大丈夫。おかえり、お母さん」 「ただいま」 ゆっくりと扉を開け、お母さんが入ってきた。 「調子はどう?」 「痛みはあるけれど、昨日ほどでは無くなったよ。ゴロゴロして過ごせたし、土日もこの調子で過ごしたらもっと良くなるんじゃないかな」 「…そう。良かった。あ、これ。飲み物を頂いたよ」 「お。ありがとう」 お母さんは私にペットボトルの飲み物を渡してくれた。 期間限定のカフェラテ…カステラ風味!? 「な、なにこれ…」 「面白いわよね。お母さんも見たこと無い」 カフェラテのカステラ風味はヤバいでしょう…。 そう思いながら、言葉の違和感に気付いた。 「…あれ? ていうか。お母さんが買って来たんじゃないの?」 「頂いたの。下に降りられる? 今もいらっしゃるわよ」 「…あ…うん、降りようか…」 手摺を持ってゆっくりと1階へ降りる。 リビングには楽しそうな笑い声が響いていた。 「あ………早川先生…」 「真帆さん。お邪魔しております」 先生はソファに座って、お父さんとお茶を飲んでいた。 「お体の方はいかがでしょうか。良くなりましたか?」 「はい、痣は酷いですけど…痛みは軽くなっています」 「そうですか…。良かったです。安心しました」 お母さんに促され、先生の隣に座る。 先生は嬉しそうに微笑んだ。 「あ、そういえば先生…。これ、ありがとうございます」 カフェラテのカステラ風味。 摩訶不思議な飲み物。 先生は甘い物が好きだけれども、こういう変わり種の飲み物も好きなのかな。 「いえ、是非飲んでみてください」 「……カフェラテのカステラ風味って、初めてみたのですけど…美味しいのですか?」 「僕は美味しいと思います」 その言葉を信じて飲んでみることにした。 キャップを開けると漂う甘い香り。 一口飲んでみる。真っ先に甘さがやってきて、その後ほのかにコーヒーがやってくる。 カステラ…と言われれば、カステラなのか? 何と表現すれば良いのか分からない味。 うーん。不味くはないが……ただただ、甘い。 「…甘いですね」 「美味しいですか?」 「…まぁ、甘いです」 「………それは美味しくない反応ですね…」 先生の言葉は少し不満そうだったが、その顔はニコニコと楽しそうだった。 「さて、夕食にしようか。真帆、今日は裕哉くんも食べて帰ってもらうから。お酒も沢山用意したぞ~」 「今日は車を家に置いてきております。そして僕も、持ってきました」 そう言いながら2人は袋からお酒を取り出した。 無邪気な笑顔に私も頬が緩んだ。 「真帆さんにはこれもあります」 「ん?」 差し出されたペットボトル。 「………炭酸フルーツポンチ?」 「はい。フルーツポンチ味の炭酸飲料です。お酒はダメなので、これを飲んでみて下さい」 有難い。先生の気遣いは凄く嬉しいけれども。 チョイスが独特なのが気になる。 どこにでも売ってある飲み物では無い。一体どこで買ってくるのだろうか…。 しかし…これは普通に美味しそうだな。 フルーツの絵が描かれているポップなデザインのラベル。見た目が可愛い。 さっきのカフェラテのカステラ風味よりは良さそう…そう感じた。 「ありがとうございます。これは美味しそうです」 「…これは、ということは…やはりカフェラテは微妙でしたか」 「いえ…微妙というか、甘いというか…」 「そうですか…」 先生は私の手からカフェラテのカステラ風味を取り、それを普通に飲んだ。 「…美味しいですよ、これ」 「………」 血が全身を一気に駆け巡り、体が熱くなる。 先生…それ…か、間接キス…!!! 驚きすぎてそのまま固まってしまった私。 そんな様子を見ていたお父さんが、笑いながら茶化した。 「そのくらいで真っ赤になるなんて、真帆もまだまだだな!!」 お父さんにそう言われること自体恥ずかしい。穴に埋まりたい…。 優しそうな表情でこちらを見ていた先生は、私の耳元で小さく囁く。 「それ以上のこと、もう何度もしているではありませんか」 「!!!!」 せ、先生の馬鹿!!!! 意識が跳びそうになるくらい、頭がクラクラした。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加