第一話 数学補習同好会の変革

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<浅野先生と数学> 朝起きると、早川先生からメッセージが届いていた。 『藤原さん、寝てしまい大変申し訳ございませんでした。先程目覚めました。コートはまた明日お返ししますので、必ず来てください。お待ちしております』   メッセージの届いた時間は21時45分となっている。 まさか、そんな時間まで寝たとか無いよね…? 「真帆、おはよー!」 「おはよう有紗」 有紗とはご近所さん。有紗は部活を辞めてから、毎朝家まで私を迎えに来てくれるようになった。 「真帆、コートは?」 「早川先生のところ」 「何で!?」 キャッキャッと声を上げながら駅へ向かう。 昨日の話を聞いた有紗は、私の肩を笑いながら叩いた。 しかし、コートが無くても暖かい。   まぁもう、春だしね。 駅に咲いている桜の花びらは散り始め、ピンクから緑に移り変わり始めていた。     学校には始業の15分前に着く。 昇降口には、立哨(りっしょう)当番の先生が複数人立っていた。 「おはようございます」 立っている先生たちの中に、眠そうな人が1人。 「早川先生、おはよー」 「おはようございます…」 「…おはようございます。藤原さん、的場さん」 有紗はニヤニヤしながら先生の顔を覗き込む。 さっき、昨日の話をしたからな。有紗は凄く楽しそう。 「ほら、真帆」 有紗に促され、私も真似をして覗き込んでみる。先生は小さく口を尖らせて、目線を逸らした。 先生、可愛い。 先生の髪が少しだけ跳ねていた。 「真帆、面白いね!」 「あまり先生をからかわないでよ…」 「いやぁ…つい、面白くて!」 「もう…」 有紗の腕に抱きつきながら教室に入る。 「ねぇ浅野先生! どんな子がタイプなの!?」 「ははは!! 清楚で大人しい子!」 「それ私ら該当する!?」 「今から清楚で大人しくなれば行けるんじゃね!?」 教室に入ると、もう浅野先生が居た。 そして先生の周りを、ラクダ色のカーディガンを着た集団が取り囲んでいる。 「真帆、伊東の時に見た光景だね」 「…うん」 前任の伊東も女子生徒に囲まれていた。 その時の光景が重なる。 どうしよう、こんな人が担任だなんて。 「私、3組に行きたい」 「早川先生のクラスだったら、毎日ハッピーだったのにね」 「うん…」 小声でそんな会話をしていると、始業のチャイムが鳴り響いた。 「はい、おはようございます! 早速、点呼を取りますよー!!」 明るく元気な声を上げる浅野先生。 そんな様子を見ながらざわついている女子。   浅野先生、どこが良いのか分からないよ。 私は耳を澄ましてみる。 席が後ろの私は、耳を澄ませば3組の声も聞こえてくる。 …早川先生。 そこにいたかった…。 「…真帆、真帆!」 「え?」 「点呼!」 意識が隣のクラスに行っていた。 点呼で私の名前、呼ばれていたんだ。 「藤原さん、大丈夫ですか? 改めて、藤原真帆さん!」 「は、はい。すみません」 クラスから笑いが沸き起こる。 温かいクラスで良かったけれど、いけない。気を付けなければ…。 ホームルームが終わると、有紗が跳んできた。 「真帆、どうした!? 名前呼ばれても反応しない真帆、面白すぎるんだけど!」 「他所事考えていたかも」 「心は3組?」 「…言わないで」 ニヤニヤが止まらない有紗。小声で周りに聞こえないように言葉を発する。 「隣から何か聞こえた?」 「名前を呼ぶ声」 早川先生の点呼の声が微かに聞こえてきた。 私も、そこに居たかったなぁ。 ていうかやばい、どうすることも出来ない感情で胸がいっぱいになっている。どうにもならないのに。 「藤原さん、おはよ」 「神崎くん…おはよう」 「出た、神崎!!! 何しに来たのよ!!」 「的場さんに用は無い」 神崎くんは私の横に屈んで、小声で話し掛けてきた。 「隣のクラスが良かったんじゃないの?」 「………」 「図星でしょ」 そう、神崎くんは私が早川先生のことが好きということを知っている。1年生の終わり際、有紗が暴露して知られた。 神崎くんの中では『私の片思い』ということになっているけれど。両思いで付き合っていることは知らない。 「心が隣のクラスに行っていたから、点呼で反応出来なかったんじゃない?」 「……別に、神崎くんには関係無い事だよ」 図星過ぎて上手な返答が出来ない。 困ったように机に伏せると、有紗が声を上げた。 「神崎…怒るよ」 「的場さんは関係無い」 「なら、この件について神崎は関係無い」 2人が小声で言い合う。 …はぁ、頭が痛い。 「俺、まだ藤原さんのこと諦めていないから。的場さんは本当に邪魔をしないで」 そう言って私から離れて行った。 有紗は怒りで震えている。 「何なの神崎…!! 大体、何しに来たのよ!」 「私の思いを確認しに来たんじゃない…?」 私はもう一度、机に伏せた。 何だか、色々な感情が混ざって…胸も痛い。
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