第五話 「教師と生徒」以上のこと

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早川先生なら、どこに行くだろうか。 職員室か。 中庭か。 …空き教室棟か。 「……」 悩みながら廊下を彷徨っていると、教室棟に繋がる渡り廊下で早川先生を見つけた。 壁に肘をついて、中庭を眺めている。 「………先生」 その一言を聞いた早川先生は、勢いよくこちらを向いた。 「藤原さん…」 「先生の馬鹿」 「……」 「浅野先生と2人きりになるって分かるはずなのに逃げるなんて」 「…何かされましたか」 「ギューされて、チューされたので、逃げてきました」 「え!?」 ちょっと、意地悪をしたくなった。 早川先生は小刻みに震え始め、目には涙が溜まり始める。 教師としての先生と、個人としての先生が葛藤しているようだ。 それを無表情で見つめる私。 我ながら、悪い人。 しかし、私も嘘は得意ではない。 早川先生の感情を抑えている様子が可愛くて。 次第に…笑いが零れて来た。 「ふふっ」 「……何ですか。笑いが出るほど、浅野先生は良かったですか」 先生の目から一筋の涙が零れた。 完全にネガティブモードの先生だ。 …何だか、可哀想になってきた。 「…先生、ごめんなさい。嘘です。ギューもチューも嘘です。本当は、腕を握られたくらいです」 私の一言に目を見開き、両手を伸ばしてきた。 そして、強く抱き締められる。 「ちょっと、ここではまずいですよ!!!」 「…そうですね」 先生はすぐに手を離し、体を中庭の方に向けた。 「…だから、いつ取られるか不安だと言っているのです」 表情は見えないが、先生のその声は酷く悲しそうだった。
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