第六話  非日常がもたらすもの

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第六話  非日常がもたらすもの

<失う怖さ> (side 早川) 最近の僕はどうかしている。 昔からそうだったが、最近はより一層感情の制御ができない。 神崎くんの件以降、悪化している気がする。 浅野先生に付き合っていることがバレたあの時。 真帆さんが言ってくれた言葉が胸に響いた。 『ご両親の意志を継いで、裕哉さんには死ぬまで教師で居て欲しいと、私は本気でそう思ったんです!!! 守らないといけないって、思っていたんです!!』 僕よりよっぽど大人だよ。 そこまで考えていてくれていたのに。 周りに気付かれないように気を付けてくれていたのに。 僕自身が周りの脅威に、付き合っていることを公言してしまう。 正直、耐えられないんだ。 僕という存在がいるのに、真帆さんにラブアピールをする男がいるという事実に。 しかも、2人も。 真帆さん。 可愛くて健気で優しくて、良い子。 その上、賢い。それなのに数学だけ赤点。 もう、愛おしくてどうしようもない。 伊東先生がいなくなって少し安心していたのに。 浅野先生…やっぱり脅威だった。 僕の目に狂いは無かった。 机の上に飾っているストラップに手を伸ばす。 四つ葉のクローバーが入った、緑色のストラップ。 真帆さんと初めてのデートに行ったとき、色違いで買ったものだ。 真帆さんはピンク。 それを今も、通学鞄に付けてくれている。 「……はぁ」 こんなにも満たされているのに、まだ何か足りない。  ガラッ 「先生~こんにちは」 「…こんにちは」 急いでストラップを元の位置に戻し、扉に視線を向ける。 放課後の数学科準備室。 的場さんが1人で来た。 「…藤原さんは?」 「二言目はそれかよ」 的場さんはソファに腰を掛けて大きく溜息をついた。 「先生、真帆…本当に文化祭実行委員に選ばれたの」 「え?」 「真帆から聞いたんだけど、実行委員の担当が浅野先生だから、クラスの実行委員に真帆を指名するって言われていたんでしょ? …それね、本当になっちゃった」 「…藤原さん、実行委員になったってことですか」 「そう。しかもね、実行委員のペア。神崎」 嘘だろう。 衝撃的な話に頭を強く殴られたような感覚になる。 「私、ホームルームの時に抗議したんだけど。無理だった。ごめんね、先生」 別に的場さんは悪くない。 けれど…どうにかして欲しかったな。 神崎くんの代わりに的場さんが立候補するとか。 浅野先生をどうしようか考えていたけれど。 神崎くんもとは…。 「で、今日実行委員の集まりが早速あるでしょ? それに行ったから遅れてくると思うよ」 「……そうですか」 「浅野先生もいないから、私と2人だ! どうする?」 …お互い教える人がいないし、教えられる人もいない。 だけどそんなことよりも、実行委員会に行った真帆さんの方が気になる。 僕が担当になれば良かった…なろうと思えばできたはずなのに。 「………」 「先生、大丈夫?」 「……この同好会では、僕は藤原さんにしかお勉強を教えません。的場さんは浅野先生が来るまで自習です」 「はぁ!? 正気!? 公私混同しすぎじゃない!?」 「何か問題がありますか?」 「この教師ヤバいんだけど!!!!!!」 やってられんわー、なんて言いながら鞄から数学の問題集を出す的場さん。 こんな性格でも真帆さんのお友達。 根は本当に優しいし、この子も真面目だ。 口が悪いのが気になるけれど。
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