第六話  非日常がもたらすもの

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しかし…真帆さん。 実行委員かぁ…。 浅野先生、神崎くん。 考えれば考えるほど不安が募るのに、何もできないことがもどかしい。 「…そう言えば、的場さん。校外での空手は上手く行っていますか?」 「空手? うん、もう馴染んだし…ここの空手部より人も良くて楽しいよ。まぁ…色々あったけど、結果的には良かったかな?」 的場さんは空手部の先輩だった男子生徒とお付き合いをしていた。 けれどその生徒は、前任の伊東先生に「彼女やセフレを売る」代わりに、空手の指導をしてもらっていた。 嫌がる的場さんも「売られ」てしまい…そのうち空手部を辞めたという過去がある。 「良かったです。最近は生き生きとしていますから。安心しました」 「…え……凄い……早川先生もちゃんと“先生”なんだ!!」 「どういうことですか」 「いやだって、私の前での先生って。いっつも真帆のことばかりで、先生の顔というよりは彼氏の顔って感じ。私のこと見えていないもんね、真帆しか見えていないもんね。だから、私個人にこういう心配をしてくれるのは珍しいって思って!」 そこまであからさまにしている自覚は無いけれど。 そう感じ取られているなら仕方ない。 「…まぁ、的場さんは生徒っていうか。真帆さんのお友達って感じですから」 「真帆の付属品ってこと!?」 「そこまで酷いことは言っておりません」 黙々と問題を解き始めた的場さん。 僕はそれを横目に明日の授業の準備を始めた。 ……けれど、どうしても文化祭実行委員会が気になる。 モヤモヤする…。 「ねぇ、先生。先生って真帆と2人の時もそんな感じなの?」 「…ん? そんな感じとは?」 「敬語で面白く無い感じ」 「………」 唐突な質問に体が熱くなる感覚がする。 敬語なのはそれがいつもの僕だからっていうのがあるけれど。 何だろう。 それをおかしく感じたことはない。 「別に良くないですか。真帆さんと2人の時にどんな感じかって、的場さんには知る権利がありません」 「…いや、マジで呼吸するように酷いこと言うよね!? 良いじゃないの、教えてくれるくらい!!!!」 「知りたければ次の中間考査で数学満点取って下さい」 「は、鬼すぎ!!! 真帆ったらこんな鬼のどこが好きなんだろう!?」 的場さんには無理だね。 数学満点。 怒っている様子が面白くてつい笑いが零れる。 正直な話。 真帆さんが文化祭実行委員として活動することによって、僕から離れていくのではないかという漠然とした不安も少しあった。 浅野先生と神崎くんに限らず、他のクラスや学年の生徒と交流することで、新しい世界が広がることだってある。 …考えすぎ? いや、でも。 そのくらい…不安だし、怖いんだ。 結局、的場さんが帰る時間になっても2人は戻ってこなかった。 真帆さんなら終わったらここに来るはず。 そう信じながら、僕は数学の本を開いた。 (side 早川 終)
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