第六話  非日常がもたらすもの

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<委員としての仕事> ……苦手なんだよね。 実行委員会とかって。 何だか、明るくて元気があって…友達が沢山いて、青春しているような人。 そんな人たちが集まるイメージ。 私には程遠い世界…だったはずなのに…。 「ねぇ、藤原さん。こういう委員とかってやったことある?」 「…いや、無いよ」 「何で浅野先生は藤原さんを指名したんだろうね? まぁ、俺は願ってもいないチャンス到来だったけど」 「……」 そうか、神崎くんは浅野先生の思いを知らないのか。 …知らなくて良いけれど。 ホームルームで神崎くんが立候補した時、浅野先生は感情こそ出さなかったけれど、神崎くんを実行委員にさせないように誘導しようとしていた。 軽音部がどうこうって、あれは実行委員にさせないための口実だろう。 あのタイミングで授業終了の本鈴が鳴ったから。 先生は神崎くんを指名せざるを得なかった。 「みなさん、お待たせしましたー!」 そんな陽気な声と共に扉が開き、浅野先生が入ってきた。 「え、担当浅野先生!?」 「ヤバい当たり!!!」 女子生徒たちが黄色い歓声を上げる。 浅野先生が文化祭実行委員会の担当ってことを知っていたのは私だけか。 授業も無く一切関わりのない学年にも、浅野先生のことが好きな生徒がいることは有名な話だ。 伊東を彷彿させる。 またファンクラブでもあるんじゃないかな。 「うちら2組だったらよかったのにね」 「ねー、浅野先生のクラスが良かった。3組のあの真面目で固い奴、本当面白く無い」 「分かる~うちは飛谷先生だけど、絶対浅野先生が良かった!」 ………。 聞き捨てならない、1組と3組の子たちの言葉。 真面目で固くて面白く無いのは早川先生の取り柄だから。 そこは否定して欲しくない。 …なんて、私も酷いことを思う。 「…藤原さん。俺と付き合ったらそんな顔しなくて済むのに」 耳元で小さく囁く神崎くん。 「やめて」 神崎くんを押し退けて真っ直ぐ前を見る。 浅野先生もこちらを見ていた…。 「…さて、早速始めましょうか!」 まずは顔合わせということで、全員の自己紹介から始まった。 1人ずつ発言をして、終わったら文化祭実行委員会の仕事内容の確認。 この学校では最初に全員で全体の決め事をして、その後5つの係に分かれて準備を行っていくようだ。 「係はクラスごとに分かれて貰おうと思います。装飾係が3クラス、飲食販売係が2クラス…」 浅野先生は係名を読み上げながら黒板に書いていく。 「パンフレット係が1クラス、企画係が2クラス…最後、広報係が1クラス…以上! 立候補にしようか!」 クラスごとにざわざわと話し始める。 神崎くんは黒板を眺めながら暫く考えて口を開いた。 「パンフレットか広報がいいね」 「……」 1クラスの係だよね、それ…。 「よし。先生、2年2組はパンフレット係で!」 「……パンフレット?」 神崎くんの言葉に少し目を細める浅野先生。 少し考えたのち、腕で大きなバツを作った。 「ダメ~。2年2組はパンフレットに向いていないよ。装飾とかどう?」 「立候補じゃないのですか。先生に拒否権は無くない?」 「僕は君らの担任だからさ!」 「なにそれ、全然関係無いし」 ………。 浅野先生による見えない攻撃。 早川先生ほどあからさまでは無いけれど。 伝わってくる……。 神崎くんと2人きりになる係にさせないようにしようとする、浅野先生の思いが。 もう、頭が痛い。 結局、私たちは2年3組と一緒に企画係をすることになった。
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