第六話  非日常がもたらすもの

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<切れないもの> 「…ここは…」 「あ…真帆さん」 「藤原さん、大丈夫?」 目を覚ますと、私は数学科準備室のソファに横たわっていた。 最後の記憶は……津田さんの言葉を聞いたところまで…。 「…え、もしかして。私また意識無くしていた…!?」 勢いよく体を起こし、周りを見る。 両側に早川先生と浅野先生が立っていた。 「藤原さん、会議室で意識無くしてからここまで抱いて連れて来させてもらったよ。睦月先生がいなくて保健室には行けなかったから。ごめんね」 「あ、いえ…こちらこそ…すみません」 頭がガンガンする。 手で押さえながら視線を早川先生の方に向けると、少しだけ目を伏せた。 「…藤原さん。津田さんの言うことは気にしなくていいと思う。僕的には、津田さんとその人がくっついてくれた方が嬉しいけれど、それによって藤原さんが傷付くなら…そうしたくない」 優しい声色の浅野先生。 早川先生は首を傾げながら不安げに小さく口を開く。 「真帆さん…先程何があったのか…浅野先生は全く教えてくれません。また暴力を振るわれたとか…そういうのではないですよね」 「それは…無いです」 改めて津田さんの言葉を思い出す。 津田さん…早川先生のことが好きかぁ。 素敵、かっこいい、溢れ出る大人の魅力、真面目って言っていたっけ。 …半分くらい違うな。 精神は子供で余裕が無くて、溢れ出る嫉妬心。 ………。 早川先生のクラスに先生を思っている人がいるなんて、微塵も思っていなかった。 表立って言わないだけで、津田さんのような人は他にもいるんだろうな。 「…浅野先生。軽音部に行かれてはどうですか。藤原さんは僕が面倒を見ますから」 「そうは言っても。僕の目の前で起きたことですし、大切な藤原さんを置いて行けません」 2人はお互いを睨み合う。 …浅野先生が津田さんのことを言わないのは何故だろう。 「あの、浅野先生。ありがとうございました。本当、大丈夫なので…軽音部に行かれて下さい」 「僕が邪魔ってことね」 「そうでは無いですけど…」 「まぁ…分かった。良いよ。軽音部に行かないといけないのは本当だし。じゃあまた明日。身体には気を付けてね」 そう言って浅野先生は数学科準備室から出て行った。 「…はぁ」 思わず溜息が漏れる。 文化祭実行委員会すら面倒なのに。 津田さんまで現れるなんて…。 早川先生も溜息を漏らして向かいのソファに座った。 「…真帆さん。白状しなさい」 「……」 「浅野先生が真帆さんを抱っこしてここまで来た時、驚きと苦しさで死ぬかと思いました」 「……」 「さっき浅野先生が言っていた、津田さんの言うことって…何ですか。津田さんって、うちのクラスの子ですか?」 「……………い、言いたくないです」 涙が溢れてきた。 言いたくない。津田さんが早川先生のことを好きだなんて言いたくない。 早川先生、生徒からの人気が無くて囲まれないことを気にしていたから。 きっと…複雑に思いながらも喜ぶんじゃないかな。 「真帆さん、怒りますよ」 「…嫌、嫌だ!! 先生は知らなくて良いことです!!」 そう言い放って数学科準備室を飛び出した。 「ちょっと待って下さい!!」 遠くに歩いている生徒が見える。 先生は廊下まで出たものの、追い掛けてくることは無かった。
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