第六話  非日常がもたらすもの

8/14
前へ
/94ページ
次へ
帰りの車の中、先生はある話題を切り出した。 「結局、真帆さんのお誕生日を祝えておりませんし、プレゼントも用意し損ねております」 …確かに。 5月が2人とも誕生日で、また後日改めて祝おうって話していたのに。 その少し後に神崎くんの取り巻きに怪我させられて、完全にタイミングを見失っていた。 「そうですね…。私も裕哉さんを祝えていません」 「……あの、もし真帆さんが宜しければ。何かお揃いの物を買いませんか。実は5月の段階からそう考えており、プレゼントを用意していなかったのです。…どうでしょうか」 「お揃い…ストラップがありますよ」 「それはそれです。何か、身に付けられるものとか…」 「…ふふ」 意外と乙女チックだ。 私じゃなくて先生がそう考えるなんて。 「何で笑ったのですか」 「いや、乙女チックだと思いまして」 「……あまり笑っていると、襲いますよ」 「えぇ~…裕哉さんなら襲われても良いです」 そう答えると、先生は笑い出した。 それに釣られて私も笑いが零れる。 「しかし…学校では、止めておきましょうね」 「あれは裕哉さんがストッパーを外したのが悪いです」 「え、違いますよ。最初に行動したのは真帆さんの方です。あのせいで…学校で制服姿の真帆さんを見ると思い出してしまいます」 「変態ですね」 「健全です」 そんな会話をしてまたお互いに笑い合う。 「まぁ、冗談は置いといて。今度、何か見に行きましょうね」 「はい。楽しみです」 優しい笑顔の先生。 その笑顔が、大好き。 「文化祭実行委員、頑張ってください。不安ですが、僕は応援するのみです」 「ありがとうございます。嫌ですけど…頑張ります。…そう言えば同好会の方、私と浅野先生がいない間はどうするのですか?」 うーん…と少し考えていた。 そして、ポツリと呟くように言う。 「的場さんと2人なので、1人で自習をして貰います」 「え、教えないのですか?」 「教えません。同好会で数学を教えるのは真帆さんだけと決めておりますから」 「えぇー…何それ」 やけに自慢げに話す先生が面白い。 けど、これでは顧問失格だな。 「だから、終わったら早く来てください」 「それは勿論ですけど…あまり有紗を適当にしないでくださいよ」 「的場さんも僕に対してそんな感じなので、お互い様ではないですかね」 「まぁ、確かに…」 車は私の家の前に停まる。 先生と過ごす時間はあっという間だ。 「…さて。ここまでです。ありがとうございました」 「こちらこそ」 お互い頬にキスをして車から降りた。 …大丈夫。 明日からも、頑張ろう。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加