第六話  非日常がもたらすもの

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それから数週間が過ぎ、あっという間に文化祭前日を迎えた。 体育館内の準備で大忙し。 しかし、明日の文化祭本番を迎えることによって、この実行委員としての日々が終わることに喜びを感じる。 解放される時を目標に頑張るのみ! とはいえ…時刻は既に21時を回っている。 それなのに終わる目途が立っていない。 いつ終わるの、準備…。 「あれ、色々メモ書きしたプログラムはどこにやったっけ?」 「こっちない」 「もしかしたら会議室に置いたままかも」 みんなそれぞれにやることがあり、バタバタと忙しい実行委員。 「…あ、私探してくる」 「ありがとう、宜しくね藤原さん!」 簡単な探し物。 ちょっと息抜きをするには丁度いい。 体育館を出て校舎に向かう。 実行委員と生徒会と先生たちしか居ない学校。 校舎内は様々な装飾が施されており、いつもとは全く違う空気感になっていた。 足早に会議室へ向かい、電気も付けずに暗闇の中を探す。 書類の山を探すが、目的の物は見つからない。 「どこだろう」 次の山を探そうと体を起こすと、突然後ろから誰かに抱き締められた。 「…藤原さん」 「……………え?」 その人から香る匂いで、早川先生では無いことは一瞬で分かる。 「少し、話を聞いて」 その声は、浅野先生だった。 「は、離してください!!」 「話を聞いてって」 いつもの明るい声とは全然違う。 低くも優しさのある声だった。 「この前も言ったけど、頑張ってくれてありがとう。僕は君の担任であることを誇りに思うよ」 「………」 早川先生よりも背が低く、少し小柄な浅野先生。 それでも私より大きいその体は、男らしさを感じさせる。 「…頑張るのは当たり前のことです。お願いですから、離れてください」 「嫌だ」 「早川先生呼びますよ」 「呼んでどうするの? この光景を見せて傷付ける?」 「……」 酷い人だ。 そうやって私の選択肢を奪う。 「あんなに辛く酷いことをされても、挫けずに頑張る君を素敵に思う。…おかしいよね。僕は、生徒と付き合うなんてありえないと思っていたのに。こうやって、藤原さんのことを好きになってしまうなんて…」 凄く小さな声。 …こんなの。 高校生になって、何回目。 私、数学教師を引き寄せる電磁波とか出ているのかな。 「…浅野先生。探し物をして戻らないと。みんなが困ります」 「わかっているよ…けど…」 浅野先生は一瞬だけ手に力を込めて、私の体を回しお互い向き合う。 そして…ゆっくりと顔を近付けてきた。 いや…嫌だ、無理!!! 「嫌だ!!!!」 力を振り絞って浅野先生を思い切り押した。 先生の手が少し離れたタイミングで抜け出し、走って会議室を出た。 「藤原さん!!!!」 名前を呼ぶ声が聞こえてきたが、無視して走り続けた。
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