第七話 2人を繋ぐ物

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活動開始から1時間が経過し、有紗と浅野先生は数学科準備室から出て行った。 早川先生と2人。 静かな時間が訪れる。 「藤原さん。この前言った、お揃いの物を買いに行く件です。テスト返却が終わってすぐのお休みで行きませんか」 「良いですね。ですが先生、ショッピングセンターとか行けないんじゃ無かったですっけ?」 「……この近辺がダメなのです。遠くなら問題ありません。また、隣の県に行きましょう」 机の上に置かれている先生の手に、そっと指を重ねてみた。 大きな手が、素敵。 何度も見ているはずなのに、何度見ても飽きない。 「そう言えば、少し真面目な話をします」 「…はい」 少しズレた眼鏡を直し、真っ直ぐな目でこちらを見る。 “先生モード” に切り替わった。 「顧問として質問するのですけど、藤原さんは現在、進路についてどうお考えですか」 「………進路?」 今まで一度も先生の口から出てこなかったワードにビックリした。 進路…。 こんなこと言うとあれだが、1ミリも考えたことが無い。 「大学進学か、就職か。その大まかな道筋を立てる時期に来ています」 「そうですね…」 漠然とだが、進学をできればしたいと考えてはいた。 ただ、将来何をしたいかまでは決まっていないから…。 進学したい先は大学なのか専門学校なのか…全く分からない。 「………」 …うん、今は分からん。 回答に悩んだ私は椅子から立ち上がり、早川先生の耳元に顔を近付けた。 「…藤原さん?」 「…………裕哉さんの、お嫁さんという選択肢はありますか?」 消えそうなくらい小さな声で囁いてみる。 一瞬フリーズした先生。 しばらくすると耳まで真っ赤にして、思い切りこっちを向いて口を開いた。 「…何ですか。早川真帆さんになってくれるのですか?」 「えっ!!」 予想外の返答に、今度は私の方が真っ赤になってしまった。 早川…真帆…。 その一言に、心臓が驚くほど飛び跳ねる。 「せ、先生の馬鹿!」 「いや…真帆さんが先に言い出したのでしょう」 すっかり”先生モード” がオフになってしまった先生。 まぁ、私のせいだけど。 先生は私を強く抱き締めて、優しく唇を重ねた。 「…しかし…真帆さん。進学でも就職でも、ご自身がやりたいことを優先して決めて下さい。その決断を、僕は隣で一生応援し続けます。そしていつか、真帆さんのやりたいことが叶った時。その時に僕と一緒になって下されば…これほど嬉しいことはありません」 先生の優しい言葉に胸が熱くなる。 …しかし、私がやりたいことかぁ。 本当に、何だろう。 私は何がしたいのだろうか。 「…先生、やりたいことが見つかりません」 将来の夢なんて考えたこともない。 大体この高校すら、制服が可愛いからという理由だけで選んで入学して来たのだから。 夢がある人って、凄いよね。 「……そうですか」 私を抱き締めたままの先生は、手を頭に回してポンポンとしてくれた。 「大丈夫です。もう少し悩めます。しっかり自分と向き合って、最適な進路を決定させて下さい。僕はいつでも相談に乗ります」 「…裕哉さん。何だか、教師みたいなこと言いますね」 「ふふふ、何ですかそれ。真帆さん。残念ながら、貴女の彼氏は教師なのです」 「………知ってた!!」 体を抱き上げられて、そのままお姫様抱っこをされる。 目線が同じになった先生と私は、どちらからともなく唇を重ねた。
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