第七話 2人を繋ぐ物

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<思うこと> 凄くいい天気。 まさしく、お出掛け日和。 「裕哉さん、おはようございます」 「おはようございます」 家の前まで迎えに来てくれた先生の車に乗り込む。 今日は、待ちに待ったお買い物に行く日だ。 「裕哉さん…格好がエロいです…」 「はい?」 濃い茶色のパンツに、黒いジャケット…。 黒いカッターシャツの第一ボタンを開けて、日頃学校でしないデザインのネクタイを緩く結んでいる。 そして、首筋から覗く細いシルバーのネックレス。 七三分けではない前髪に、縁無し眼鏡。 無理。 思わず実況をしたくなるくらいカッコイイ。 「最近どうしたのですか。エロいとか色気があるとか。思春期ですか?」 「…違います。裕哉さん自身に磨きがかかっています。刺さるのですよ、私の性癖に」 「性癖…どういうことですか?」 「…ここから先は有料です」 「………」 ここ最近は表情が凄く柔らかい。 悩みが前に比べて多少無くなり、生活に余裕が出てきたのだろう。 その余裕さが滲み出ている気がする。 …色気、エロさとして。 「因みに、知っていますか。エロと色気はイコールではありませんよ」 「残念。知ってます〜。勉強済みです」 「……貴女って人は…。そんなこと勉強する時間があるなら、もっと数学を勉強して下さい」 「嫌です。数学よりもこっちの方が捗ります」 「とんだ変態ですね」 「裕哉さんには敵いません」 苦笑いの先生は、左手で私の頭をチョップした。 「しかし、中間考査はなかなか良かったと思います。褒めて下さい」 「良かったですか? 31点で?」 「赤点回避しているから良かったのですよ!!」 1学期の期末は赤点だったが、この前は31点で回避出来た。 2年生になり、2回目の31点。 頑張った方だと思うのだけど。 「…ふふ、冗談です。いや、本当に凄いですよ。真帆さん、高校ではずっと赤点だろうと予想しておりましたので」 「それ凄く複雑です…」 「真帆さんの一生懸命なところ、大好きです」 「…ありがとうございます」 車は隣の県に向かって走る。 うちの生徒たちがいないであろう、遠いショッピングモールを目指して。 「真帆さん。もうすぐ修学旅行ですね」 「それですよ。2月でしたっけ?」 「はい。2月11日から14日です」 修学旅行。 3日目まではスキーで、4日目は東京の自由観光だ。 あまり乗り気では無いが、先生も一緒に行けるということで…。少しだけ、楽しみだ。 「僕も同行できること、非常に嬉しく思います。それと同時に、浅野先生と神崎くんがいることに不安を覚えます」 「…それは私も同じですよ。津田さんは裕哉さんのクラスにいるのですから…」 「浅野先生と神崎くんも、真帆さんと同じクラスです」 「そうですね」 どうしようもない事実に、お互い溜息が出る。 「津田さんとは文化祭の時以来、何かありましたか?」 「何か…というわけではありませんが…。凄く手伝ってくれるようになりました。回収した問題集を運ぶとか。些細なことなのですが、気付いたら横で手伝ってくれています」 「………」 そんなの、下心丸出しじゃない。 あからさま過ぎる。 「………何か、不満そうですね」 「はい。不満です。津田さん、早川先生のこと諦めてないと思いますよ?」 「…何でそう呼ぶのですか」 「私の彼氏は裕哉さんですけど。津田さんの好きな人は早川先生だから」 少し拗ねたようにそう言うと、先生は吹き出すように笑った。 「真帆さんが嫉妬している様子が新鮮です。いつも僕ばかりなので、嬉しいです」 「喜ばないでください。こちらは真剣です」 津田さん…修学旅行の時も何か行動を起こしそうで怖い。 ああいう真面目そうな子が、何をするか一番読めない。 「東京の観光って、完全に自由ですか?」 「そうです。班行動ではありませんので、決められた時間内でしたら自由に行動できます」 「………」 そうか。 ……津田さんなら。もしかしたら、早川先生にくっついて行動するかも。 浅野先生はファンが多いから。 私のところには来られないだろう。 神崎くんは…知らね。 「真帆さん。何も考えず、楽しんで下さいよ」 「え?」 「高校生として行く修学旅行は最初で最後です。僕のような教師は、2年の担当になれば何度でも行く機会があります。……真帆さんと一緒に行けるのは最初で最後ですが。それでも、僕のことを気にするより、純粋な高校生として楽しんで貰いたいです」 「…でも…」 言葉を継ごうとすると、先生の手で口を塞がれた。 「僕は浅野先生とデートしますから」 「……ふふっ」 その一言が面白くて笑いが吹き出た。 浅野先生は引き留めておくから、純粋に楽しんでねということかな。 「…ありがとうございます。…しかし、裕哉さんと浅野先生のデートも見たいです」 「駄目です。見たら嫉妬しませんか?」 「え、私が浅野先生に?」 「はい。僕は嫉妬しますよ。的場さんに」 言っていることがおかしすぎて、笑いが止まらなくなった。 前から先生が有紗に嫉妬をしていたのは知っていた。 けれど、今もだなんて。 そしてこんな面白いことを真顔で言っているのが最高。 本当、飽きない。 「私は裕哉さんほど器が小さくないので。さすがに妬きません」 「……駄目です。妬いて下さい」 「また言った! それは強要するものではありません!」 先生、可愛すぎる。 好きすぎて愛おしい感情が溢れて止まらない。 「裕哉さんは、津田さんに気を付けて下さい」 「そちらも大丈夫です。浅野先生とデートしていたら、入る隙はありませんから」 その自信はどこから湧き出るのか。 少し得意気な顔が面白い。 車は隣の県に入り、もうすぐ目的のショッピングモールに着く。 先生と初めてのお買い物デート。 少し、ドキドキする。
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