第八話 誰の目にも触れさせたくなくて

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2日目のスキー研修と食事が終わり、各自部屋に戻る。 結局今日は、スキー板を付けた状態で歩くことが出来るようになっただけだった。 初心者なのに滑れる人は、本当に凄いと思う。 「真帆。今日は温泉行く?」 「……」 ニヤニヤしている有紗。 分かって言ってるだろ……。 「…馬鹿なこと言わないで下さい。1日では何も変わりません!」 そう言うと、吹き出すように有紗は大笑いし始めた。 「……ふははは!!! いや、真帆。最近ちょいちょい思うんだけど、喋り方が早川先生に似てきたよね!!!!」 「え?」 「たまに早川先生が憑依してるよ!!」 ………………。 完全に無意識だった。 気にしたことも無い。 「カップルは似るって言うけど、こういうことなのかね?」 「やめてー、恥ずかしい…」 「良いじゃんラブラブっぽくて! じゃ、温泉行ってくるね!」 有紗は大笑いをしながら部屋を出て行った。 あれは完全に楽しんでいるな、有紗。 「…………ふぅ」 1人になると、昼間に見た早川先生と津田さんのツーショットが頭をよぎった。 目に焼き付いて消えない光景。 津田さん…やっぱり先生に付きまとっている。 そしてこちらも、浅野先生と神崎くんが常に一緒。 ……想定内だけど。 悩ましい、本当に。 カーテンを開けて外を見てみる。 窓からはライトアップされたスキー場が見えた。 早川先生と一緒の修学旅行なのに。 近いようで、遠い距離。 そろそろ、寂しい……。 そんなこと考えていると、スマホが鳴り出した。 「え?」 ……早川先生からの着信だ。 「も、もしもし!」 『今お部屋ですか』 「はい」 『おひとりですか』 「はい」 『なら良かったです。僕も点呼時間まで自由なので部屋にいます。……どうしてもお声が聞きたくて、ご連絡しました』 優しい声色に胸が熱くなる。 「……私も。さっきまで丁度、先生のこと考えていました…。お話、したかったです」 『そうでしたか。以心伝心ですね』 「そういうことにしておきましょう」 小声で囁くような先生の声。 先生は私の心が読めるのでは無いかと錯覚するくらい、タイミングの良い電話だ。 嬉しすぎて、心が躍る感覚がする。 『昨日、温泉前で生徒の見張りをしていました。その時に的場さんが来て、色々言われましたよ』 「色々? ……有紗から何も聞いていません」 『そうですか。…真帆さんが温泉に入れないことを、強く責められました。ですが、お互い様ですので。僕からも真帆さんがしたこと、ご報告させて頂いております』 「え!?」 私も先生にキスマークを沢山付けたこと!? 昨日も今日も有紗は至って普通で、そんなこと一切言っていなかったのに。 有紗ったら、先生から聞いたことを心の内に秘めながら私と接していたってことなの!? 「……え、やめてよ。恥ずかしい……」 『お互い様ですから』 そう言って先生は小さく笑った。 それからも2人で当たり障りのないことを話し、そのうち話題は浅野先生と神崎くんと津田さんのことになった。 『そう言えば、浅野先生と神崎くんに腕を握られていましたね』 「え!? 見ていたのですか!?」 『当然です。わざと2組と3組が見渡せる場所に立っております。真帆さんはスキーが苦手そうですね』 「……よく見ていますね……。……というか、そう言う先生こそ、津田さんがいつもそばにいます」 『…はい。あれでも、突き放しておりますよ。…全然響きませんが』 「分かっています」 胸に引っ掛かっていたものが取れる感覚がする。 先生と話すうちに、気持ちが少し軽くなってきた。 『あ、真帆さんすみません。呼び出しがかかったので切ります。また明日も頑張って下さい』 「はい、ありがとうございました」 「………」 先生との電話が終わった後、そのまま床に寝転ぶ。 ……僕のことを忘れて、高校生として修学旅行を楽しんで欲しい。 そう言っていた先生は何処へ行ったのやら。 結局メッセージを送ったり電話を掛けてきたりして。 最初に言っていたことと矛盾している。 けれど。 本当はそれで良い。 私だって、寂しいのだから。 今だって声を聞いただけで、明日への活力が湧いてくる。 「真帆ー! ただいま!」 「有紗。おかえり」 「…ん、真帆。泣いてる?」 「え? いや、泣いてないけど……」 「目が赤いよ?」 「……ちょっと、疲れたから眠いのかも! ……よし、私もお風呂入るね」 「…真帆?」 本当は、ほんの少しだけ。 先生の声を聞けた喜びで。 涙腺が緩んでいた。 先生の近くにいたい。 先生の隣にいたい。 先生と沢山話していたい。 まだ2日目なのに、そんな思いで胸がいっぱい。 この3つを無条件に達成できる数学補習同好会って凄いよ。 …なんて、そんなこと考えた。
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