第八話 誰の目にも触れさせたくなくて

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2年生最後の学年末テスト。 考査期間も無事に終了し、答案用紙の返却も行われた。 「…………うそ」 数学以外の科目はいつも通り90点以上。 そして、問題の数学は…なんと67点だった。 放課後、有紗のことを放置して数学科準備室に飛んで行った私。 着いて速攻扉を開けて、中に入った。 「ねぇ、早川先生!! 67点!!!!」 興奮気味の私の様子に少し驚きつつ、先生は笑顔で褒めてくれた。 「本当に、良く頑張りました。僕も採点をしながら涙が出てしまいました。これは藤原さんの努力の結晶です。貴女の力ですよ」 「…違います。先生が根気強く教えてくれたからです!! 多分、先生じゃなかったらここまで伸びていませんよ」 「そんなことありません」 先生は私に近付いてきて、抱き締めてくれた。 「このまま行けば、高校を卒業する頃には90点行けるかもしれませんね」 「本当!! 夢じゃないかも! 3年生になってもここで、早川先生に数学を教わるのですから」 「…もしかして藤原さん。あんなに大嫌いだった数学、好きになりましたか?」 「はい。数学、好きになりました!!!」 「ふふふ、それは良かったです。数学教師として、これほどに嬉しいことはありません…」 頭が濡れる感覚がした。 先生の腕をほどいて顔を見ると、先生は涙を流していた。 「え、泣いている!?」 「…すみません。感動しました…」 大嫌いだった数学。 入学した頃は、数学なんて無くなればいいとまで思っていたのに。 数学の点数が伸びて、さらに数学が好きになるなんて…私も思っていなかった。 数学を親身になって教えてくれる人がいて。 その人はとても大切な人で。 私のことで泣いてくれる人。 「先生、引き続き数学の勉強を頑張ります」 「…はい。その意気です。僕はいつでもお教えします。同好会以外でも、いつでもどこでも。貴女の専属ですから」 「ありがとうございます」 先生としても。 彼氏としても。 どちらの裕哉さんも私にとって大切。 どちらも、失いたくない。 だから… ラスト1年間も。 今までと同じように。 数学補習同好会で。 『早川先生』に。 数学を教えてもらえると、本気で思っていた。
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