SS「禍福は糾えるパンのごとし」

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
松竹梅というランクのついたアンパンを販売するパン屋があった。 松は上級で、最高品質のアンコと生地を使用し、焼き加減にも細心の注意が払われている。 竹は中級で、松ほどではないが細かいこだわりが随所に感じられる。 梅は罰ゲーム用で、アンコの代わりに練り梅が入っており、非常に酸っぱい。 この三種のアンパンを販売しているパン屋「政宗パン」は、最初は松と竹に期待を寄せていた。しかし、予想に反して梅が一番売れたのだ。その理由は単純だった。「まずい」と評判になり、人々は一度試してみたくなったのだ。 「本当にそんなにまずいのか?」という興味から、梅を購入する人々が続出し、口コミは瞬く間に広がった。梅のアンパンの酸っぱさに顔をしかめるお客たちの姿がSNSに投稿され、その面白さから、さらに人気が高まった。やがて梅のアンパンは「梅パン」として市民権を得るに至った。 一方で、松と竹のアンパンは次第に売れなくなっていった。政宗パンの店主は頭を抱え、対策を講じることにした。単価と利益の高い松や竹が売れないのは困る。パン生地の中に実物の松や竹を入れてみたりもしたが、これが裏目に出た。お客からは「いや、そうじゃない」とクレームが殺到し、すぐに取りやめる羽目になった。 「どうすればいいんだ……」店主はため息をつきながら考えた。ある日、彼は閃きを得た。 その内容は、「松は練り梅の量が三倍。竹は練り梅の量が二倍」というものだった。名付けて「梅増えちゃいましたパン」で、価格も上げた。 「やった、成功だ!」 売れ行きを見て、店主は喜びを隠せなかった。梅パンが市民権を得たことを踏まえ、バカ正直にやっただけのこと。だがこれ以降も政宗パンは、ますます繁盛していった。 やることがバカだったのは確かだが、そのバカさが成功を生み出したというお話。 ただ一人、店主だけは「売れるのはいいんだけど、そうじゃないんだよなー」と深夜に頭を抱えた。おしまい。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!