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車を運転して家に向かいながら、もう庭は駄目かもしれないと思った。妻の庭を守れなかったことが情けなかった。
路肩に大きなトラックが停まり、あちこちで白い防護服を着た者達がホースで薬剤を噴射しバナナムシ達を瞬殺している。
途中JOY MARTの方向へ走るレスキュー隊の車両とすれ違い胸を撫で下ろした。
自宅に到着するも憎きバナナムシの姿はなく、それどころか庭の周りに木の枠が施され防虫ネットで囲いがされていた。
「親父、久しぶり」
家から出て来たのは息子の瑛二だ。大工の彼は昔から善二と折り合いが悪くあまり実家に寄り付かなかった彼がいることは稀なことだった。
「瑛二、来てたのか」
「ニュースでこの町で変な虫が大量発生してるって聞いてさ、仕事休んで駆けつけたんだ。虫は車に積んであった冷却スプレーで即死したよ」
善二は唖然とした。あんなに苦労して作った殺虫剤は一体。
「これもお前が?」
庭を指さすと瑛二は頷いた。
「うん、お袋がせっかく作った庭だし守ってやりたいなと思って」
善二は胸が熱くなった。分かり合えなかった息子が頼もしく思えた。
「とりあえず、上がって話そう」
善二は言った。
今晩は息子と二人酒でも飲もうと思った。
了
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