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——バナナムシ。
子供達や一部の大人は奴らをそう呼んだ。正式名称はツマグロオオヨコバイ。羽がバナナのように黄色く先が黒いホタルの様な可愛らしい外見で、数匹であれば害にはならない。
異常事態は春先から始まっていた。
ある朝善二は、家の庭の柿や栗や梅の木に黄色いホタルのような虫がびっしりと縋っているのを見てギョッとした。見るとアーチ型のフェンスに咲く紫の藤の花にも、家の前の花壇のクロッカスと忍冬と月見草の根や花弁の上にもいる。
「忌々しい虫め」
善二は舌打ちをした。よく観察すると虫達が普通より大きく見える。通常バナナムシは大きくても体長3ミリ程だが庭にいるのは10cm位で、窓に縋っているもの等20cm位に見える。
「何だこりゃ」
善二は首を傾げた。何であれ妻の田鶴子が遺した庭に害虫が棲みつくことは許されない。バナナムシは植物の水分を吸い取る。このままでは妻が精魂込めて造った庭が枯れ果ててしまう。
倉庫から駆虫剤を持ち出し庭に散布すると、虫達は羽音を響かせ逃げていった。だが翌日にはまた元の有様でこれには善二もお手上げだった。
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