バナナムシ大量発生!!

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 善二は未だ混乱の収まらぬ場で狼狽える店長から拡声器を奪い、口に当てて大声で叫んだ。 「いい加減にしろおおおおお‼︎‼︎‼︎」  凄まじい怒声に全員がピタッと動きを止め、皆の視線が善二に注がれる。 「どいつもこいつもこの非常時に自分のことばかりだ‼︎ 現実を見ろ‼︎ 今にも店はこの虫達に滅ぼされようとしておる、俺達が必死に築き上げて来たもの……家も畑も、死んだ妻が大事に手入れしていた庭もだ‼︎」  善二は涙と鼻水を垂らしながら叫び続けた。 「だのにこんなことでいいのか?! 皆悪党の如く欲のままに店の物を盗み、争い憎み合う‼︎  これでは何も解決せん‼︎ 今やるべきはこの町を守るために皆一丸となり、あの憎き虫共を一掃することだ‼︎ 目を覚ませええ‼︎‼︎」  呆然とする人々の中でただ一人頷いた人間がいた。筋田だ。 「鬼瓦さんの言う通りだ、今は皆で力を合わせるべき時だ」 「確かにそうだ」と議員丸山が続いた。 「爺さん、いつもあなたの言うことには頭に来ていたが、今回ばかりは私が間違っていたよ。議員ともあろうものが真っ先に非道徳的なことをしようとしていた」  そこに不貞腐れていた店長が出て来て謝った。 「皆さんすみませんでした、店長である私が店とお客様の命を守るという義務を放棄してしまいました。今後は心を入れ替えて頑張ります」 「ええいっ、仲良しごっこなど御免だ! さっさと硝子の補強にとりかかるぞ!」  善二が声がけをすると、店長と善二を含む20人ほどの男性達が木材と金槌を手に自動ドアと硝子の補強作業を開始した。  残り30人ほどは夕飯作り班と、強力殺虫スプレー開発班に分かれた。  料理嫌いの道子は殺虫スプレー作りに加わることにした。    市販のスプレーでは効果がないため、手作りするしかない。道子は以前田鶴子から教えてもらった手作り殺虫剤の作り方を覚えていた。きっと店の中にあるもので作れる筈だ。  田鶴子の指示により皆で材料を集めた。使う物は精製水50Lと10Lの消毒用エタノールと米酢、1Lのハッカ油、野菜売り場にある唐辛子、ニンニクそして植物売り場にあるユーカリ、ドクダミ、ペパーミント、ラベンダー、レモングラス等のハーブ類だ。これらには病害虫の防除効果や匂いによって忌避させる効果がある。  材料が集まったらそれらを巨大なタライに入れて混ぜ合わせ、エキスを抽出するために皆で長い木材を使って潰す。店内にはハーブとスパイスと油、酢の混じった異様な匂いが漂っていたがいかにも効果がありそうだった。やがてできた殺虫剤を百均のスプレーボトルや水鉄砲の中に詰め完成だ。完成した時あちらこちらから拍手が上がった。だがこの殺虫剤が効果がなければ終わりだ。効果を試すために道子は恐る恐る衣装ケースの中のバナナムシに吹きかけみた。すると虫は激しくのたうちまわったのちひっくり返りピクリとも動かなくなった。
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