契約成立

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契約成立

大ちゃんの後ろをついて行った。リビングから廊下の奥に部屋の扉があった。大ちゃんは振り向いて 「ここが今日から咲希ちゃんの部屋だから」と扉を開けてくれた。 大きな窓があるその部屋は真ん中に大きなベットがあって、その横には1人がけのソファーとガラステーブルがあった。他にも扉が2つあり1つはクローゼット、もう1つはバスルームにトイレも完備されていた。 「すごーいっ」 「気に入ってくれた?この部屋は鍵もついてるから安心していいよ。他の部屋にも案内しよう」 私の荷物を置いて歩き出した大ちゃんについて行く。大ちゃんの部屋と書斎、水回りなど弁護士さんってお金持ちなんだなぁーと思ってしまった。健吾さんと暮らしていたマンションよりも豪華な気がする。案内が終わってまたリビングに戻ってきた。 「これがカードキーだから無くさなように気をつけて、それと当面の生活費と咲希ちゃんのお給料ね。足りなかったら遠慮しないでいうんだよ」 「こんなにいっぱい…まだ働いてもないのに」 「女の子だもん、他にも入り用があるだろ?それに咲希ちゃん用の茶碗や箸も買わないといけないからね。もちろんそれは生活費として出していいからね」 「大ちゃんってお金持ちなんですね」 思わず声に出てしまった。 「え?」 「あ!すみません。失礼なこと言いましたね」 恐る恐る答えると大ちゃんは笑っていた。え?怒ったんじゃないのかな?と思ったら理由を教えてくれた。 大学の時にお祖父さんから勧められて投資を始めた。それがいい具合で増えていき資産を確実に増やしていったこと。そのお金でこのマンションと車を買ってあとは老後の資金まで溜まっているのだからすごいとしか言いようがない。 「だから、咲希ちゃんにここで家政婦として働いてもらっても全然平気だから安心して、それに本職の仕事でもお給料はもらってるんだから」 「ありがとうございます」 「咲希ちゃんお腹すかない?今日は簡単だけど俺が作るから、その間に咲希ちゃんは荷物の片付けでもしておいで」 「そんな…私が家政婦なのに…」 「いいから」 背中を押されながら部屋の前に連れてこられてしまった。 「じゃあ片付けてきます」 「うん。ゆっくりでいいからね」 そう言って静かにドアが閉められた。 ー大輔sideー 思わず口から出てしまった契約という言葉…咲希ちゃんが逃げないようについ言ってしまったが、初めは戸惑っていたけど、なんとか口説き落としたのはいいけど… 施設を出てからそんな大変なことがあったのかと思うと相手の男を殴りたい気持ちになった。結婚を仄めかして暮らしたがいいけどセフレまで作ってるなんて、でも彼はどうして咲希ちゃんにこだわった?お互いの利益のため?他にもやり方はあるだろう。いつまで彼女を囲うつもりだった?家政婦を雇いたいのであれば雇えばよかったのに…でも今の俺は彼とおんなじことをしようとしてる?いやそれ以上なのかもしれない。なんとなくこれが彼女に対して愛しい気持ちがあるから自分の見える範囲で彼女を守りたいと…でもやってることはおんなじだ。しかもそれを契約という方法で…でもあんなに傷ついている彼女をほって置けなかったのは事実だ。しかも俺とあゆみが夫婦だと大きな勘違いまでしていた。これから俺が咲希ちゃんを甘やかして、大切に扱えば、あわよくば俺のことを好きだと思ってくれるかもしれない。ただ、10年の年の差はやっぱり大きいかもしれない。でも俺はやっぱり咲希ちゃんを今更、手放すことなんてできない。いろんな感情の中、ご飯を作った。 簡単にサラダとスープを作った。最後の仕上げは彼女を起こしてからと思い俺は咲希ちゃんの部屋に向かった。 トントントン 「咲希ちゃん、ご飯できたよ」 声をかけても返事がない。この部屋から出た形跡もない。咲希ちゃんの部屋はリビングを通らないと玄関にはいけないような作りになっている。しかもアイランドキッチンのため俺に隠れて出て行くのは無理なはずだが…もしかしたら鍵をかけられてるかもと思いながら、ドアに手をかけた。そっとドアを押すと簡単に開いた。 ベットの隅で咲希ちゃんは寝息を立てて寝ていた。病み上がりなのに俺から逃げようとあんな遠くまで行った彼女は疲れもでたんだろう。抱きあげてベットの真ん中に彼女を下ろした。頬に涙の跡が残っていた。俺との契約は彼女の負担になってるだろうか、それでも 「咲希ちゃんごめんね。もう離してあげられないかもしれない」 濡れた瞼にそっとキスをした。でもこのままご飯も食べずに寝てしまったら、体には良くないだろう。咲希ちゃんの体を揺すり彼女を起こした。 「咲希ちゃん、ご飯食べよう。起きて」 声をかけると、うっすらと目を開けて俺と目が合った途端に飛び起きた。 「うっ…」 「ごめんなさい」 勢い良く飛び起きた咲希ちゃんのおでこが俺の鼻を直撃した。咲希ちゃんはオロオロしだして何だかとても可愛く見えた。 「俺の鼻が高すぎたのかもな」なんて言っても涙目でごめんなさい。と謝るので大丈夫ご飯にしよう。と思わず頭を撫でようとして手を止めてしまった。咲希ちゃんは首を傾げて 「どうかしましたか?」と聞いてきた。
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