素敵な本

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あの書斎で咲希ちゃんを見つけた次の日の朝、俺が起きると咲希ちゃんは普通通りにしていたので俺も咲希ちゃんをあの場所で見つけて布団をかけ直したことには触れなかった。 仕事が忙しくなってしまい咲希ちゃんとは一緒に暮らし始めた日に晩ごはんを食べて以来、一緒に食べれない日が続いた。 そこでふと気になった。ネットで買い物をしなさいと言ったのにも関わらず、何かを買った形跡がないのに気づいた。あれから4日も過ぎている…確かに多少の食材は残っていたけどそんなに多くはない。彼女は一体何を食べているんだろう? 「咲希ちゃん、しばらく仕事が立て込んでるから1人じゃ寂しいだろう?母さんやあゆみを誘うといいよ」 「大丈夫です。ありがとうございます」 「そういえば…咲希ちゃん買い物もしてなさそうだけどちゃんと食べてる?一体何を食べてるの?」 「食べてますよ。食材が思ったより余ってるんです。捨てるのはもったいないでしょ?私のことは気にせず仕事頑張ってくださいね。いってらっしゃい」 「じゃあ行ってくるよ」 大ちゃんが家を出ていくとホッと息を吐いた。 確かに食材は減ってきてしまったけど買い物はしたくない。米さえあればなんとかなる。まだ生きていける。私のためにお金を使うのはもったいない。 だって私はかわいそうな人間なんだから拾ってくれたんだから。 大ちゃんは一緒に食べれる日が多いと言ってたのに結局、食べたのは1日しかない。大ちゃんみたいに見た目もカッコよくて背も高い。しかも弁護士なんて嫌いになる人なんかいない。きっとモテるんだろう。毎日遅くまで仕事と言ってるけど、本当は健吾さんのように…というか彼女がいるんだろうな。そりゃそうだよ。独身だもん。 そういえば…最近まともなご飯を食べてないせいか頭がボーッとする。今日は最後の卵とネギだから卵丼でも作ろうか…でもその前に炭酸水をいっぱい飲んでお腹を膨らまそう。1日1食でも生きていける。私は炭酸水をいっぱい飲んで洗濯物を干して、あまり汚れていないけど水回りやリビングの掃除をした。ほぼ使っていないけど、埃は溜まっちゃうから掃除機をかけた。あっという間に終わってしまってそのまま大ちゃんの書斎に入った。 ここには色んなジャンルの本がたくさんあった。どのくらいここにいれば、この本を全部読めるんだろう? 弁護士さんだから難しい本ばかりだと思ったけど、色んなジャンルの本もいっぱいあるから私でも楽しめる。 でも結局、本を読んでるといつの間にか寝ちゃうんだよね。でも寝た方が時間がたつのが早いから…お腹も空かない。夕方までまだ時間はいっぱいある。書斎のソファーに座りこれから先の未来を考えた。いつまでここにいれるんだろう?大ちゃんに彼女がいると宣言されたら?それとも…結婚するって言われたら?それじゃあ私はどこに行けばいいの?また健吾さんと出会った生活に戻らないといけないのか… 健吾さんと暮らしていた時間が長かったせいか私は1人になるのがとても怖かった。1人だとなぜかいい方向に物事を考えられなくなる。そんな時にこの書斎にあった「1人でも寂しくない」という本だった。 「大ちゃんも寂しかったことあるのかな?どうしてこんな本があるんだろう?」 でもこの本を読んでると心がポカポカしてきて、1人じゃないと思えるから不思議な本だ。そしてこの本を読むとなぜか深く眠れるし、昔の辛かったことを思い出さない。結局私は今日も夢の中だけでも幸せになりたくて、その本を手に取り読み始めてるうちに眠ってしまった。
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