入院

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仕事がひと段落ついてお昼を食べていた15時ごろ佐竹から電話があった。 「園田、今少しいいか?」 「あぁ何かわかったのか?」 「中嶋が捕まった」 「捕まった?」 「あぁ…アイツ、セフレに暴力を振るったらしくてな」 「セフレに?」 「そのセフレっていうのは自分の秘書だ」 「なんで秘書になんか?」 「中嶋は出張から帰ってきたらお前が保護してる子を大元の小田島組に会わす約束をしてたみたいなんだよ。どんな子を引き取ったと話をしてたみたいだが会わせたことはなかった。中嶋が本当に彼女に手を出してないか確認するために。それなのに彼女は見つからなくて」 「咲希ちゃんを探してたのか?」 「探してたみたいだよ。でもいない。実は出張の荷物を取りに行かせたのが秘書だったみたいで、秘書はその時に咲希ちゃんに自分と中嶋がセフレ関係にあるって仄めかせたのがわかったんだよ。その秘書は咲希ちゃんのことが嫌いだったみたいで…それで殴られたから警察に」 「そうだったのか…」 「まぁ取り調べをしたのは俺の弟だ、だから他にも余罪があるんじゃないかって調べてる。それと小田島組についても明日、調査が入る。でも念の為、咲希ちゃんを守ってやれよ」 「あぁ連絡ありがとう。助かったよ」 「また何かあれば連絡するから」 「よろしく頼む」 佐竹と電話を切って頭の中を整理した。まだ咲希ちゃんを自由にすることはできないけど、事件が公になり関係者が逮捕されたら落ち着くかもしれない。そんなことを思いながら仕事をしていた。今日は19時にクライアントと打ち合わせが入っている。もう3年ほどの付き合いのある俺が顧問弁護士をしている会社の社長だ。他にも資料作成や意見書の作成に追われて気がついたら18時を過ぎた頃にあゆみから電話がかかってきた。 「もしもし、どうした?」 「ねぇ咲希ちゃんはどうしてるの?」 「家にいてくれって言ってるから家にいると思うぞ、コンシェルジュから連絡がないから外には出て行ってないはずだが」 「家に行って何度も鳴らしてるけど咲希ちゃん出ないのよ。コンシェルジュの人も大ちゃんの許可が取れれば家を見に行くことも可能だけどって言ってくれたんだけど…」 「出ないのか?」 「そう。何度も…」 「これからクライアントとアポがあって家に戻れないんだ」 「疲れて寝てるだけにしてはこんなに出ないのはおかしくない?」 「あぁ…母さんはいないのか?」 「今日はお友達と歌舞伎を見に行ってるってさっき連絡きて…」 「わかった。コンシェルジュ近くにいるなら変わってくれないか?」 「わかった。代わるね」 俺は事情を話して、あゆみを家に入れて欲しいとお願いした。本当は手続きが必要だがもし万が一のことがあったら…緊急事態だからと言うとOKしてもらってあゆみに全てを頼んだ。これからクライアントに会うから終わったら俺の方から電話をするからと言って電話を切った。何もなければいいが…と思ってると 「先生、南雲社長がいらっしゃいました」と伊川さんの声がした。 「どうぞお通ししてください」と声をかけて仕事に気持ちを切り替えた。 今回は少し混み合った話もあり2時間くらいたってしまったが、咲希ちゃんの様子を聞きたくてあゆみに電話をかけた。 「もしもし、咲希ちゃんはどうだった?」 「ちょっと大輔あんた何やってるの?」 「なんだよいきなり」 「咲希ちゃん入院したから、説明するからさっさと来なさいよ。聖アリア病院だから」 そういって切ってしまった。俺は支度をして病院に向かった。 病院に着くと玄関の前であゆみが待っていた。 「コンシェルジュに開けてもらって部屋を探したらキッチンで倒れてたの、咲希ちゃん元々細い子だったでしょ?あまりご飯を食べてないのにも関わらず、水分ばかり取っていたみたいで炭酸水とかお水とか、それで空腹を満たしていたのか…先生が言うには水中毒、低ナトリウム血症を起こしたみたいなの。ねえ、ご飯はどうしてたの?」 「この前も言ったが、カードを渡して買い物をしてもいいって言ったが今朝気づいたんだ、買い物してる形跡がないって。だから咲希ちゃんに聞いたら食材が余ってるから食べてるって」 「あれから何日経ってるのよ。冷蔵庫に卵1個とネギが少ししかなかったわよ。ご飯を作ってる感じにも見えなかったから朝も昼も食べてなかったんじゃないの?」 「まさか…」 「じゃなきゃ、そんなに水分ばかり摂らないでしょ。大輔は朝どうしてたの?」 「初日に作ってくれたけど、咲希ちゃんの負担になると思って朝はコーヒーだけ飲むと言ったんだ」 「じゃあ咲希ちゃんがご飯を食べていたか見てないの?」 「あぁ…」 「もう何やってるの。彼女に万が一のことがあったらどうするのよ。ちゃんと守ってあげるんじゃなかったの?」 「そうだな。確かに作ってくれた時、断ったら残念な顔してた気がする」 「気がするって…咲希ちゃんはそれじゃなくても色々あって精神的にも不安定だと言うのに、晩ごはんはどうしてたの?」 「忙しくて一緒に食べてない」 「あんたね…」 「それより咲希ちゃんはどうなんだ?」 「今、点滴受けてる。栄養状態も悪いからしばらく入院して経過観察よ」 「咲希ちゃんには…」 「もう面会時間は過ぎてるの会えるわけないでしょ」 「明日は会えるか?」 「面会時間は15時〜20時までだから」 「わかった。色々すまなかったな」 俺は、仕方なく家に帰った。どうして咲希ちゃんの心に寄り添わなかったのだろうと…
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