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彼女に会うために
朝早くにあゆみから電話があった。咲希ちゃんの荷物を取りに行きたいと、確かに入院してるとなると下着や着替えが必要だろう。あゆみもこれから仕事なのにその前に来てくれた。流石に女性の荷物を探すのは…あゆみに任せてると咲希ちゃんの部屋から戻ってきたあゆみの顔が暗く見えて声をかけた。
「どうした?何かあったか?」
「咲希ちゃん出ていくつもりだったの?」
俺は言ってる意味がわからず聞き返すと、咲希ちゃんの部屋はまるで使われてないようだったと、荷物もクローゼットにリュックとスーツケースに入れられたままで、ハンガーには1着も服をかけていなかったと。
「ねえ咲希ちゃんに家政婦の話をした時どうだった?ちゃんと納得してくれたの?ちゃんと彼女の意見聞いてあげた?」
「聞いてなかった。親父にも咲希ちゃんの気持ち聞いてやれって言われたのに…」
「忙しかったかもしれないけど、でも前の家でも家政婦同然で、大輔からも
家政婦の契約持ちかけられて辛かったかもしれないわね」
「そうかもな。考えなしに家政婦って言葉で彼女を繋ぎ止めたのは確かだ。でもそれならどうして断らなかった?」
「断れるわけないでしょ。再開してまだ数日の人に自分の気持ちなんて言えるわけないでしょ?」
「そうだな」
「今日、咲希ちゃんの病院に行くんでしょ?彼女のこと責めたりしちゃダメだからね」
「わかってる」
あゆみはそのまま仕事に向かった。咲希ちゃんがいないこの部屋がずいぶん寂しく感じられた。でも咲希ちゃんはいつも1人で家からも出られず、きっと寂しい思いをさせたのかと思うと胸が苦しくなった。
彼女を守るためについた家政婦の契約はただ彼女を苦しめていたのかもしれない。俺は一体これからどういう風に彼女に接していいのか…
でも彼女に会いたい。仕事を調節して彼女に会いに行こう。そして寂しい思いをさせてしまったことを謝ろう。今度は間違えないように咲希ちゃんに本音を言ってもらえるように…
今日は事務作業があって大変だったけど咲希ちゃんに会うためにお昼も自分のデスクで食べながらしていると伊川さんから
「先生、お昼も食べに行けないほど急な案件ありましたか?」
と声をかけられた。
「いや、今日は早く帰りたいから」
「珍しい、彼女でもできましたか?」
「いや、そんなことないけど…」
「でも先生みたいに見た目も良くて仕事もできるんじゃ、私だったら自分が釣り合うのか不安になりそうですね」
「そんなわけないだろ。伊川さんも今日は早く帰ってね」
そんなことを言いながら今日は定時で事務所を出た。
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