気持ちを伝え合う

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気持ちを伝え合う

俯いていた咲希ちゃんは布団を握りしめ、目から涙が溢れてきた。 「咲希ちゃん、私も大輔も久しぶりに咲希ちゃんに会えて嬉しかったのよ。私はね咲希ちゃんには幸せになっててもらいたいと思ってた。あの頃、誰よりも傷ついていたのに誰にも頼れる場所も人もなさそうに見えて、いつも寂しそうにしていた咲希ちゃんに少ししか寄り添えなかったことがずっと心に引っ掛かってて、どうしたら、咲希ちゃんみたいに辛い思いをしてる子の気持ちをわかってあげれるんだろうと思って、児童心理司の仕事についたの。でもまだまだ寄り添ってあげれてないのかもしれないかもしれないけど…」 あゆみの言葉で顔に手を当てて泣き始めてしまった。 「大輔に言いたいことあるならちゃんと話するんだよ。大輔もだけどね、心の中に溜め込んじゃうと辛いだけだから」 あゆみがそう言うと、あゆちゃんありがとう。と泣きながら微笑んでくれた。 あゆみが病室を出てって2人きりになったとき、俺も咲希ちゃんに自分の思いを伝えるチャンスだと思った。こんなこと言って引かれる可能性がないわけじゃないが俺は咲希ちゃんの震えて泣いている肩を摩りながら 「俺は咲希ちゃんだから一緒に暮らそうと思ったんだよ。今まで誰とも暮らしたことはないし暮らそうと思ったことがなかった。なんとか咲希ちゃんを繋ぎ止めようとして家政婦なんて言葉を使ったのは悪かったと思ってる。別に本気で咲希ちゃんに家政婦をしてもらいたいわけじゃなかった。言葉が足りなくてごめんな。俺は咲希ちゃんが好きだよ。再会して数日しか経ってないのにそんなこと言うなんて信用できないかもしれないけど、出会った当時からどんな子よりも咲希ちゃんが気になっていながら結局、距離を縮めることができなくて、ボランティア辞めた後も会いに行くこともできなかった。でもいつかまた会いたいと思ってたよ。咲希ちゃん、退院したらまた俺のところに戻ってきてくれないか?いいかな?」 咲希ちゃんは目を真っ赤にしながら頷いてくれた。 「私…結局、家政婦しかできないのかって思ってました。でも健吾さんみたいに大ちゃんに捨てられたらどうしようって思ってた…大ちゃんは昔からカッコイイから彼女もいるんだろうって」 「いないよ」 咲希ちゃんの言葉を遮り答えてしまった。 「えっ?」 「彼女なんていないから」 「そうなんだ…」 「だから咲希ちゃん俺のこと見てよ。俺、咲希ちゃんに好きになってもらえるようにするから」 「どうして…私なんですか?」 「咲希ちゃんかわいいし、守ってあげたいんだよ。色んなことから」 「かわいくなんかないです」 「かわいいよ。咲希ちゃんは俺のことは嫌いじゃない?大丈夫?」 「嫌いじゃないです…」 「じゃあ好き?ってそんなこと聞いたらダメだよな」 「好きです」 小さな声だったけど聞こえた。 「咲希ちゃん今、好きって言ってくれた?」 「はい」 顔を真っ赤にして言ってくれた咲希ちゃんが可愛くて 「そっかぁ好きか嬉しいよ。抱きしめてもいい?少しだけ」 咲希ちゃんの返事を待たずに抱きしめた。温もりを感じられて幸せだと思った。彼女の心にもっと寄り添いたい。彼女が抱えてる悩みや苦しみ、寂しさを全部受け止めたい。抱きしめる力を弱め咲希ちゃんを見ると顔を真っ赤にしていた。その表情がまたかわいくて思わずおでこにキスをしてしまった。ますます真っ赤になる咲希ちゃんにごめんね。キスはまだ早かったか?って言うと嬉しかったです。と言ってくれた。 「心のメンテナンスには8回のハグが必要だから毎日ハグしようね」と言うと8回もできません。と言い返されてしまった。だから俺は 「毎日、病院に来るよ。そして8回分のハグしよう」何分したら8回分ですか?と聞いてくる咲希ちゃんがかわいくてもう一度抱きしめて笑い合った。 すると面会終了のアナウンスが聞こえてきた。 「また明日、会いにくるから」 「はい。待っててもいいんですか?」 「うん。待っててほしい」 寂しそうに俯いた咲希ちゃんの頬を押さえて顔を上げさせて目を見つめた。 「咲希ちゃん言いたいことは言葉で伝えて?俺と離れるの寂しいと思ってくれてる?」 そう聞くと涙が一雫溢れた。 「寂しいです」 ちゃんと言葉に出してくれた咲希ちゃんを抱きしめて 「俺も寂しいよ。だから早く退院できるようにご飯食べようね」 「はい」 それからの俺は咲希ちゃんに少しでも早く会うために夕方からの予定を全部ずらした。彼女が夕飯の時間前に行ってご飯を食べるのを見届けるためだ。朝と昼は食欲が落ちるけど俺が一緒だと食べる量が少し増えると看護師さんが教えてくれた。 咲希ちゃんが入院して1週間が経った頃、先生から退院してもいいと許可が降りた。明日はやっと咲希ちゃんが退院する。俺は休みを取って迎えにいく予定だ。 ハグも習慣になってきて最初はぎこちなかったが最近は咲希ちゃんも俺の背中に手を回してくれるようになった。その仕草がとても可愛くて、思わず力を込めてしまい苦しいって言われることもあるけれど…そうやって少しずつ距離を縮めていけたらこれから先、もっと仲良くなれるんじゃないかと期待をしていた。
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