退院

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「咲希ちゃん忘れ物はない?」 「はい大丈夫ですけど自分のものなので荷物持ちます」 「じゃあこれ持って離さないでね?」 そう言って俺は自分の左手を差し出した。 「荷物持つ代わりに俺と手を繋ぐのは嫌かな?」 こんな聞き方はずるいと思いながら聞いてしまった。 「嫌じゃないです」 「じゃあ行こうか」 そう言って病室を出た。会計は病室にいく前に済ませてきたからそのまま駐車場に向かっていると、前から歩いて来た女性が咲希ちゃんを見るなり走ってきた。 「あなた一体今までどこにいたの?あなたのせいで健ちゃんが…」 もしかして中嶋の母親か?横にいた咲希ちゃんは顔面蒼白で今にも倒れそうな感じだ。せっかく回復して退院できたのにまた振り出しに戻ってしまう。握っている手に力を込めて咲希ちゃんを俺の背中裏に隠した。 「あなた誰?まさか男ができたの?」 「失礼ですがどのようなご用件でしょうか?」 「あなたには関係ないでしょ?」 「俺は咲希と付き合ってますから」 「どういうこと?この子はうちの健ちゃんの嫁なのよ」 「それは本当ですか?」 「そうよ。だって婚姻届の証人にサインだってしたのよ」 「それが出されていなかったとしたら?」 「そんなわけ…」 「戸籍を調べるか息子さんに聞いたらいかがですか?」 「なんなのよ。施設育ちのあなたを健ちゃんが優しいから結婚してあげたのにそれを裏切る行為をしてたのね」 「違います。私は…」 「咲希、いいから行こう。これ以上彼女を侮辱するような言動をするのなら訴えますよ。一応これでも弁護士なので」 そう言って俺はネックレスに通した弁護士バッチを見せたら中嶋の母親はそのまま逃げてしまった。 振り向いて咲希ちゃんを見ると、まだ顔色が悪く少し震えていた。その小さな方を抱いて車に戻った。 「大丈夫か?心配しなくていいから」 「大ちゃんは健吾さんを知っているんですか?」 嘘をついて隠してもバレた時に咲希ちゃんを傷つけてしまうと思った俺は咲希ちゃんに話すことにした。 「もしこれから話していて苦しくなったりしたらすぐに教えて?」そう言って手を繋いで話し始めた。 中嶋健吾が繋がっていること、そこで身寄りがない未成年の子を拾っては20歳になったらヤクザに売っていたこと、今回は咲希ちゃんだけを囲っていたが、その前は2人を掛け持ちしていたこと 「そんな…じゃあ私、もうすぐで売られるの?」 「大丈夫、中嶋は捕まったから、ただまだ咲希ちゃんを自由にできないから買い物は俺と一緒かネットになるけどいいかな?」 「大丈夫です。大ちゃん一緒にいてくれてありがとう。実はお義母さん苦手でいつも言われてたから」 「そっか。今まで辛かったね。でも俺が一緒だからもう心配いらないからね」 咲希ちゃんを助手席に乗せて自宅に戻った。そのまま咲希ちゃんの部屋に入ってこのまま一緒に暮らしたいから荷物をスーツケースから出して欲しいとお願いした。咲希ちゃんは嘘がバレた子どものように少し狼狽えてたけど、両思いなんだからと抱きしめた。 しばらく抱き合ってそれから一緒にお昼ご飯を作ろうと思ったが材料がないことに気がついた。 「近くにパスタが美味しいお店があるんだ、ランチして晩ごはんの買い物に行かないか?」 「はい」 もう一度、車に乗ってパスタを食べた。でもまだ少食の咲希ちゃんは1人前を全部は食べられない。それでも入院したばかりよりは食べれるようになったので安心した。夜は一緒にオムライスを作った。 「咲希ちゃん、朝ごはんも一緒に食べようね」 「でも大ちゃんはコーヒーしか」 「咲希ちゃんを家政婦にって言っちゃて、でも負担をかけさせたくなくて、ついコーヒーしか飲まないって言っちゃったんだよ。ごめんね。いつもはコーヒーとでも時間ないからトーストくらいしか食べないけどね」 「そうだったんですね。マーガリンとかジャムとかあったから、もしかしてパン食べるのかな?って思ってました」 「カッコ悪いよな。そんな嘘つくなんて、本当にごめん」 「大丈夫です。お互い変な気を使ってたんですね」 「そうだな。じゃあ敬語もなしでいこうな」 「そんな…大ちゃんは年上だし」 「でも彼氏だろ?じゃあ俺も咲希って呼び捨てにしてもいい?」 「いいですよ」 「じゃあ俺は咲希って呼び捨てにするから、咲希は敬語禁止、お互い破ったら…そうだなキスしようか?」 「キス…ですか?」 「そう。約束な」 いつか咲希とキスができる関係まで気持ちを伝え合いたい。
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