穏やかな日々

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穏やかな日々

咲希が退院してから毎日、穏やかな日々を過ごしている。 俺もなるべく咲希とご飯を食べれるように、咲希が1人で寂しい思いをしないように心がけてる。 「ただいま咲希」 「おかえり大ちゃん」 まるで新婚のような挨拶を玄関で交わしながら抱きしめ合うのが日課になった。でもまだ一線は超えていない。タイミングが分からずにちゃんとしたキスもできていない、まるで初めて恋をしてるようなプラトニックな関係だ。多分というか咲希は経験がないのだろう。だからこそ怖がらせてはいけないと思うが、俺の理性がいつまで持つのだろうか…俺が帰って来る前にお風呂に入ったのだろうか咲希からはシャンプーの香りとそして多分、咲希の匂いがして俺の理性を試されているようになる。このまま咲希と一線を越えたくなるが…そんなことはまだできない。だって彼女はそういう経験がないのだろう。怖がらせてはいけないよな。 「今日の晩ごはんは何?いい匂いがするね」 「今日はお野菜いっぱいのスープカレーにしたの、先にお風呂にする?」 「楽しみだ。そうだな、お風呂に入ってくるよ」 怖がらせないように咲希に笑顔を向けて自室に入った。咲希の笑顔とあのシャンプーと咲希の匂いで俺の中心が反応してきてる自分に呆れながら、これ以上、欲望が膨らまないようにお風呂に入り処理をした。1人で処理するのは流石に寂しい。俺はいつまでこの拷問のような虚しい日々を過ごすんだろうと思いながら…リビングに向かった。一緒にご飯を食べながら今日の様子を聞くのが日課になった。 「大ちゃん、明日病院なんだけど…」 「そうだな。やっとギプスが外れるな」 「結構不便だったので、楽になりそう」 「それでも無理はダメだからな。明日は俺と朝から一緒に行こう。クライアントと約束があるからそのまま事務所で待ってて親父もいるし、お昼に家に帰ろう」 「そんなご迷惑かけられません。自分で帰れますから大丈夫ですよ」 「咲希、敬語じゃないか?」 「あっ…」 チュっとほっぺにキスをした。いまだに遠慮をする時には敬語になってしまう。約束通りキスをすると真っ赤になってしまう咲希が初々しくて可愛くて今度はおでこにもしてしまった。 「大ちゃん2回も」 「だって咲希が可愛くて」 「可愛くなんかないのに…」 少しほっぺを膨らまして怒る咲希も可愛い。 「何があるか分からないから、1人で外に行くのは禁止な」 「わかり…わかった」 「じゃあ明日な。そういえば今日はどんな本を読んだんだ?欲しい本はない?」 「今日は王子様の小説を読みました。子どもの頃に施設で読んだことがあったんですが、大人になって読むとまた違った思いがしますね。大切なものは目には見えない。本当にそうだと思います」 「俺もその本はお気に入りの1つなんだ。肝心なことは目には見えないんだよ。目で見えるものが全てじゃない。でも人の心の中は見えたら楽なのにな」 「見えないし、分からないから、話をしてわかり合おうと努力するんですね」 「だから、俺と咲希も言いたいことは言い合っていこう」 「そうだね。私も大ちゃんのこともっと知りたいです」 これからも少しずつ咲希と距離を縮めていけるように、毎日ハグをした。 次の日、咲希は早くから朝食の準備をしてくれていた。 「おはよう」 「おはよう大ちゃん」 「咲希、外しても重たいものとか持つなよ」 「大ちゃんは過保護だね。大丈夫だよ」 朝食を食べて俺の車で事務所の駐車場に置き、病院に行った。 「念の為、レントゲンで骨が付いてるか確認してからギプスを取ってもらい事務所に向かった」 「おはよう」 「おはようございます先生。わぁーこの前の可愛い子だ。骨折良くなったの?」 「伊川さん、咲希がびっくりしてるから」 「咲希さんっていうんですね。初めまして園田先生のパラリーガルをしてる伊川春奈です。よろしくね」 「初めまして、高橋咲希です」 「咲希さんは先生の彼女なの?」 「あっいえ…」 戸惑って答えられない咲希に変わって、咲希の肩を抱いて彼女だよと答えると顔を真っ赤にして俯いてしまった。 「伊川さん、これから飯田さんと電話で打ち合わせがあるんだ、しばらく咲希と話をしていて待っててくれないか?」 「はい。わかりました。咲希さん美味しいクッキーもらったの一緒に食べましょう」 伊川さんは明るくて人見知りもないが少し強引なところもあるが少しの時間だから大丈夫かと思ってお願いすることにした。
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