本音

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本音

車に乗り込んでも黙ったままの私に気を使ってるのか大ちゃんは何も言わずにいてくれた。それが大ちゃんの優しさなのかもしれないけど、私はますます自分の殻に閉じこもってしまった。食欲もなくて途中で寄ったコンビニでゼリーだけしか買わない私を見ても何も言わなかった。 「咲希、疲れたよな。ゆっくり休んでて、帰りに何か買ってくるから、食べたいものがあったら教えて」 そう言っていつもの習慣で抱きしめようとする大ちゃんの手を振り払った。 「えっ咲希?」 「大ちゃんもういいから。どうせ大ちゃんも私が可哀想だと思ってるんでしょ。親もいないし友達もいない私は…大ちゃんといても結局1人ぼっちだよ。大ちゃんに私は似合わない甘ったれで、寂しがりやで私は大ちゃんのお荷物でしかない」 自分で何を言ってるのかわからなくなったが唖然としている大ちゃんから逃げるように部屋に閉じこもった。この部屋に鍵がついていてよかった。しばらくして大ちゃんが追いかけてきたが私はバスルームに逃げ込んだ。嫌われちゃったよね。このまま大ちゃんと一緒にいるわけにはいかない。かと言って今すぐに出ていけるところもない。大ちゃんから貰ったスマホにはGPSが付いてるかもしれない…あんなこと言うんじゃなかった。寂しいって言ったら大ちゃんは受け止めてくれたのだろうか?どうして私を抱いてくれないの?って言えたら答えが返ってきたのだろうか?バスルームのドアにもたれながら考えていた。その時、ポケットに入れっぱなしだったスマホから通知が入った。見てみると大ちゃんからで 〝咲希の苦しくて悲しい気持ちをわかってあげれなくてごめん。帰ったらいっぱい話をしよう。咲希が思ってること全部教えて?だから家で待っていて欲しい頼む。ヘタレでごめんな〟 と書いてあった。ヘタレ?どうして大ちゃんが?そんなことないのに… ヘタレは私だ…臆病者で情けない…結局、大ちゃんには何も言えずに自分で自分を追い込んで苦しめているだけだ。今はただ大ちゃんの優しさに甘えていればそれだけでよかったのに…静まり返った部屋の中で私は寂しくてどうしようもない気持ちを誤魔化すように布団に入った。楽しい夢を見たら幸せになれる。夢の中だけでも大ちゃんに抱きしめてもらいたい。私を包み込んで優しい笑みを浮かべる大ちゃんを思い出していた。 〈side 大輔〉 あっという間に玄関から逃げてしまった咲希を追いかけることもできずに咲希の部屋の前にいた。きっと伊川さんとの話で何か思い出したのかも知れない。何があったのかわからないけど…とりあえず事務所に戻って伊川さんに聞いてみることにした。 「伊川さん、咲希となに話してたの?咲希の様子はどうだった?」 「咲希さんですか?普通の会話ですっていうか…ちょっとデリカシーがない質問してしまったかも知れません。先生ごめんなさい」 「何か言ったの?」 「怒らないですか?うちの彼氏、ちょっと強引だけど私もすぐに絆されちゃうって、先生はそんなことしないよね?って…」 そうか…やっぱりというかそんな関係にまだなってないから自分に自信がない咲希はきっとなんでと思ったのかも知れない。だからさっきの言い方だったのかも知れない。やっぱり俺はヘタレなのかも知れない。 「それと先生、西条さんがきたんです。咲希さんは先生の彼女さんだって言いましたけど、大丈夫ですよね?」 心配そうに尋ねる彼女に西条さんも弁護士だ、変なことはしないと思うから大丈夫だよと答えて仕事に戻った。でも咲希の様子が気になって、スマホに入れているGPSに変化がないのを見ては安心している自分がいた。 早く帰って咲希の誤解を解きたい。俺は今すぐにでも咲希と関係を結びたいが、咲希の気持ちが落ち着くまではと待っていたが、そんな悠長なことを言ってられるような状況ではないと気づいた。本当にヘタレだな。
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