あゆちゃんからのお誘い

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そのお店はメイン通りから脇道に入ったところにあるが駅から徒歩3分とわりと近く、オフィス街に囲まれた隠れ家みたいなお店でブルーを基調としたおしゃれな外観のだった。昼間はご両親がランチをしてると聞いた。ランチも有名でよく行列ができるという。 ドアを開けると綺麗なお姉さんが「いらっしゃい。待ってたわよ」と声をかけてくれて奥にある席に案内してくれた。 6人くらい座れるボックス席が4つとテーブル席が4つカウンターが4席あって6時半頃に着いたがほぼ満席で、みんな楽しそうにお酒や料理を楽しんでいる様子だった。 「初めまして。あゆみの幼馴染の鹿島マキです。マキって呼んでね。咲希ちゃんって呼んでいいかな?よろしくね」 「こちらこそ、よろしくお願いします」 「とりあえず、何飲もうか?咲希ちゃんはまだ20歳になってないんだっけ?」 あゆちゃんに言われてまだ…と答えた。本当は明日が誕生日だけど、そんなこと言えない。 「そっかぁ…未成年なんだね。お酒飲ませられないのか残念…でも一応保険証見せてもらってもいい?確認させて」 バックから財布に入れている保険証を出してマキさんに出した。すると 「嫌だ。明日が誕生日じゃない。前祝いしようよ」 マキちゃんの言葉であゆちゃんが本当に?と保険証を見てきた。 「咲希ちゃんなんで言ってくれなかったの?プレゼント何も用意してないじゃない」 「あゆみ普通は私、明日誕生日なの。なんて図々しいこと言わないでしょ」 「そうか…言えないよね。ごめんね…じゃあ今日は10代最後だから美味しい料理食べよう。マキの料理は本場で修行したから美味しいのよ」 「海外に行ってたんですか?」 「うんイタリアにね。1年間だったけどだからパスタとピザは得意なのよ」 「咲希ちゃん嫌いなもの食べられないものは?」 「特にはないけど、あまり量が食べられなくて…」 「大丈夫。じゃあ少ない量でたくさんの種類を出してあげる」 「マキよろしくね」 「了解。美味しいの出すから待ってて」 そう言ってキッチンの方に戻っていった。キッチンではマキさん以外にも男性と女性がいてみんな笑顔で楽しそうにご飯を作っていた。楽しそう。 「あの男性はマキの旦那さんの幸平さん。イタリアに留学中に知り合ったんだって。同じ飲食を目指すものとして意気投合したの。それと女性はマキの妹のアキ。最近は忙しくて本当はアルバイトを募集したいみたいなんだけどマキも幸平さんもやきもち焼きでね。だから自分たちがOK出せる人材がなかなか見つからないみたいだよ」 「何、楽しそうな話をしてたの?はいあゆみの好きなワインね。咲希ちゃんにはブドウジュースにしたわよ。あと前菜ね。今日はカルパッチョ、カプレーゼ、ブルスケッタまた持ってくるからゆっくり食べててね」 「じゃあ明日、誕生日の咲希ちゃんに乾杯」 あゆちゃんと施設で出会った頃の話をした。その間にもオムレツや2種類のハーフピザ、牛肉の煮込みなどテーブルいっぱいに料理が並んだ。 「そう言えば咲希ちゃん大輔と上手くいってないの?アイツ珍しく声が沈んでてヘタレだって自分で言ってたから、何かあったのかな?って」 「私な方がダメなんです。大ちゃんは優しくしてくれるけど、結局私のこと女と見てくれないんです。大ちゃんも健吾さんと同じで両親もいない、行く場所もない私が可哀想で置いてくれてるだけなんです。私が1人ぼっちで可哀想だから」 「そんなことないと思うよ。咲希ちゃんの気持ちは伝えたの?話合った?」 「そんなこと聞けませんよ。寂しいって言ったら受け止めてくれますかね?」 「大輔なら咲希ちゃんの気持ちに寄り添ってくれると思うよ。どうして咲希ちゃんがそんなに寂しいのか、どうしたら寂しくなくなるのか…大輔に聞いちゃえばいいのに」 「そんなこと聞けませんよ。だって本当は……」 私は目の前にあるグラスに手を伸ばしグッと飲み干した。 「咲希ちゃんそれ…」 あゆちゃんの焦る声が聞こえた時には私はあゆちゃんのワインを飲み込んだ。なんだか体が暑くなってきて、ふわふわする感じがした。咲希ちゃんが大丈夫?って言ってくれたけど別になんともない。あと5時間もしないうちに20歳になるんだもん。お酒を飲める歳だし、少しのフライング大丈夫かと思ったが…いまいち頭が回らない気がするのは気のせいか?ぼーっとした頭でどうしてこんなにも寂しくなるのか考えて、口から出た質問は 「あゆしゃん(ちゃん)どうちて(どうして)、大しゃんはわたち(ちゃんは私)のこと抱いてくれないんでちょう(しょう)?」 と質問していた。 「咲希ちゃん大丈夫?舌ったらずになってるけど…」 「なってまちぇん(なってません)」 「いや…なってるけど、大輔とは何もないの?あの男が手出してないの?」 「だしゃれてましぇん(出されていません)」 「そうか…アイツも怖いのかな?咲希ちゃん何も知らなそうだし…」 「あゆしゃん(ちゃん)やっぱち(やっぱり)しゃびしい(寂しい)」 ふわふわした頭と温かい体のせいで机に突っ伏した。あゆちゃんが焦って誰かに電話をしてるな〜って思いながら目を閉じた。
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