酔い潰れて

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酔い潰れて

〈side あゆみ〉 気がついた時には私の目の前で私のワイングラスを飲み干してしまった咲希ちゃんは大輔のヘタレ具合を教えてくれた。彼女は前に暮らしていた人とも家政婦同然のように過ごしていて男女の関係にはないと言っていた。そもそも結婚もしてなかったからね。でも大輔とはいい関係になってたからもうとっくにそういうことがあるんだと思ってたのに、あのヘタレ…ちゃんと咲希ちゃんに想いを伝えていたのか疑問だ。 とりあえず大輔に電話してとっとと店に来いと伝えると30分ほどで店に来た。 「この状況はどうした?まさか酒でも飲ましたのか?」 「飲ませてないわよ。間違えて飲んじゃったの。でも咲希ちゃん明日誕生日よ。あと4時間もないけど…」 「嘘だろ?」 「保険証でちゃんと確認したから」 「何があった」 とりあえず焦る大輔に先ほど咲希ちゃんが話した内容を伝えた。舌ったらずで途中意味不明だったこともあるけど… 「咲希ちゃん、寂しい寂しいって言ってた。この子は人からの愛情を知らないから。可哀想だから行く場所もない自分を置いてくれてるだけだって。一体何してるの?どうして急に咲希ちゃんはそんなこと言い出したんだろう?」 「そうか…実は今日、ギプスを外したあと職場で俺のサポートをしてる子が色々と話したらしくて…俺が慎重しすぎて手を出してないことが、かえって咲希には自分は何もないって思ったのかもな」 「そんなことが…自分には手を出されない。魅力がないって感じたのかもね。すぐに身体の関係結ぶのも変だけど、咲希ちゃん元々自身のない子でしょ?だからますます卑屈になっちゃったのかもよ」 咲希ちゃんの頭を撫でている大輔の顔は優しくて咲希ちゃんを大切にしたいという思いがひしひしと感じられた。 「じゃあ帰るわ。とりあえず咲希の分」 お金を出そうとする大輔に咲希ちゃんの誕生日祝い。とタクシーを呼び2人を帰らせた。 「あゆみ大丈夫?」 先ほどから心配そうに様子を見ていたマキが声をかけてくれた。とりあえず今後の2人は気になるけど、これが2人にとって進展するいい機会だと思った。そのまま1人でマキと幸平さんが作ってくれた料理を堪能した。うんやっぱりいつ来ても美味しい。また咲希ちゃんと食べられたらな。と思いながら明日の咲希ちゃんへのプレゼントを考えていた。 〈side 大輔〉 俺の腕の中で安心し切ったように眠る咲希を見ながら俺はさっきあゆみから聞いたことを思い出していた。 寂しいと訴える彼女の心の中にはどんな想いがあるのだろう?俺と大人の関係になってもいいと思っているなら嬉しいが…それにしてもそんなことを先に言われるなんて男として失格だな。そう思ってたら自宅に着いた。咲希を抱えあげエントランスに入るとコンシェルジュが声をかけてきた。 「おかえりなさいませ園田様。お手伝いは必要でしょうか?」 「…エレベーターだけお願いできますか?」 「承知いたしました」 エレベーターを開けてもらい咲希を抱えたまま乗り込んだ。それにしても軽いな。最近は食べる量も少しずつ増えてきてはいたが、それよりもどこに寝かそうか?咲希の部屋に入るのも躊躇い、俺の部屋のベットに寝かすことにした。よくよく見ると頬には涙をこぼしたような痕があった。そっと唇で拭ってやる。このままなし崩しに関係を結ぶわけにはいかない。ただ俺も限界は限界だ。愛しい咲希がいるのに今まで手を出さなかったんだから… 軽くシャワーを浴びて戻ってくると咲希が起き上がって俯いていた。目が覚めたのか?と思い声をかけた。 「咲希、気分が悪いとかはないか?」 「咲希?大丈夫か?」 俺の声には反応せず、ただ下を向いていた。まだ寝てなと体を横たえようとした時 「大ちゃんに寂しいって言ったら受け止めてくれますか?どうして抱いてくれないのって聞いたら答えを教えてくれますか?私はいつまで大ちゃんの側に入れるんでしょう。離れたくないけど、大ちゃんが私よりも大事な人に出会ったら捨てられちゃうのかな?」 そう言う咲希を抱きしめた。 「どこにも行かせない。咲希はずっと俺と一緒だ。ごめんな咲希が苦しんでるのも知らずに1人で寂しい思いをたくさんさせたな。でももう離せないから覚悟して。俺の愛はきっと重いから」 そう言って咲希の唇を奪うとワインの香りが口に広がった。薄く開いた唇に舌を差し入れ咲希の歯列をなぞる。 もっと深く愛し合いたいと思い咲希を寝かして顔を覗くと咲希は静かな寝息を立てて寝始めた… おいこの状況でお預けか…俺の中心はすでに兆しをみせて咲希との初めての一夜に期待をしていたのに…寝込みを襲うようなことはしたくないが、ただこの状況も自分自身がしんどい…1度スッキリ出さないと眠れそうにない。俺はもう一度シャワーを浴びてスッキリしてから横向きに寝返りを打った咲希を抱きしめた。頭の下に腕を差し入れ腕枕をしてやる。本当は着替えさせたいが、流石にそれはやめておいた。咲希の少しだけ高い温もりを感じながら俺も我慢をして目を瞑った。きっと明日起きたらびっくりするだろう。さっき言った言葉も覚えているかわからない。ただ今後は俺以外の人と飲みに行くのは禁止と伝えよう。まだ12時にはなってないが 「愛してるよ咲希。お誕生日おめでとう」 そう伝えて頬にキスを贈った。
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