誕生日

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誕生日

大ちゃんが咲希と行きたい場所があるんだ。 そう言って車に乗って連れてこられた場所はあの施設の前だった。 なぜここに?と思って運転席にいる大ちゃんを見ると 「ここで咲希と出会った。その時から俺は咲希が気になってたんだよ」 と話をしてくれた。どうして周りの子と遊ばないのか、仲良くしてる子もいそうにない。それにどうして頭をただ撫でようとしたのに怖がられたのか… 「施設長とかに咲希の境遇の話を聞いてね。なんとか咲希と距離を縮めたいと思ってたんだけど、当時の俺はまだ子どもでその術を知らなかった。本当は誰よりも寂しがりやで愛を求めていたのにな。ごめん」 と抱きしめてくれた。私もあのときのことを大ちゃんに話した。 「本当はみんなが羨ましかったんだ。でもあの頃の私は人が怖くて、特に男の人の手がね…だから身体も手も大きい大ちゃんが怖かった。だから握手もできなかったし、頭も撫でてもらえなかった。でもいつの頃からだったか忘れたけど大ちゃんが好きだったんだぁ〜誰にでも優しい大ちゃんと私も手を繋いでみたかった。他の子が大ちゃんと手に繋いで歩いてるのを羨ましく思ったけど何も言えなかった。最後の最後までお手紙ひとつ書けなかったしね…ごめんね」 そう言うと運転席から身を乗り出して俺こそごめん。と抱きしめられた。 「そうだな。咲希からの手紙は欲しかったな。ちょっとは期待してたんだぞ」 と言われてしまった… 「じゃあ出かけるか、あのときの俺の気持ちも伝えたし、咲希の思いも聞けたからな」 そう言ってハンドルを握る大ちゃんの横顔を見ていた。 次に連れてこられた場所はこの前あゆちゃんと来たマキさんの店だった。 「大ちゃん?」 気がついたらもう14時を回っていてランチタイムは終わってる時間だ… 大ちゃんに促されてドアを開けると 「咲希ちゃんお誕生日おめでとう」 とみんなの声がかかった。 「えっ?」 「咲希ちゃんのお誕生日会をしようと思ってみんなで計画したんだよ。こっちこっち」 「SAKI Happy Birthday 20」とたくさんのバルーンで装飾している壁の前にあゆちゃんに手を引かれて連れてこられた。大きなテーブルにはたくさんの料理が並んでいた。 夢にまで見た誕生日会の風景がそこにはあった。施設では偶数月にしか合同の誕生日会をしない。マンガやドラマしかでしか見たことがない1人だけの誕生日会。 健吾さんと暮らしているときも特に何かしてもらったわけじゃない。私は望まれて生まれてきたわけじゃないからと…だから誕生日が嫌いだった。なのにここにいる人達は私に拍手をしておめでとうと言ってくれる。生まれてきてよかったんだ。あの施設にいたから大ちゃんとあゆちゃんに会えたんだから…顔を覆って泣き出した私を大ちゃんは抱きしめてくれた。
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