覚悟

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覚悟

部屋に戻ると咲希は静かな寝息を立てていた。起きていたらどうしようかと思ったが寝ていてくれていてホッとしてる自分がいた。咲希の寝顔を見ながら俺はさっきの出来事を後悔した。 普通に何もせずに一緒に寝ようと思ったのに、プレゼントのネックレスを付けるときに見た咲希の首筋に思わずキスして咲希を抱きしめた。びっくりしてたけど嬉しそうな笑みを浮かべて振り向いた咲希の唇を奪って、押し倒してしまった。俺を見上げる咲希の顔が少し強張ったのを見て冷静になったが、一緒に寝られずに部屋を逃げ出してしまった。本当俺はヘタレだ。 今までならこんなシチュエーション、そのまま流れるように終わっただろう。でも咲希の気持ちもそして初めての経験ならなおさら…いい記念にしてやりたいと躊躇してしまった。こんなときどうしたらいいのか…本当にわからない。咲希は初めてを本当に俺とでいいと思ってくれているのだろうか?流されるように俺を好きだと思ってるんじゃないか…と結局俺はそのまま咲希のベッドに入ることができずに書斎で眠れぬ夜を過ごしてしまった。 少しウトウトしてしまったころ、部屋のノック音が聞こえた。 「大ちゃん?」 と咲希の不安そうな声が聞こえて急いでドアを開けると目にいっぱい涙を浮かべた咲希が立っていた。 「どうした?」 「ごめんね。大ちゃん、やっぱり私と一緒じゃ眠れないよね?昨日、大ちゃんが戻ってきたのもわからなかったし、私……寝相悪かったのかな?」 自分のせいで俺が一緒に寝なかったと思ってる咲希を見て胸が痛んだ。俺はただ自分の欲に負けて咲希の初めてを奪おうとしたのに… 「いや…そうじゃない。俺が悪い。咲希は悪くないからな」 そう言って頭を撫でると本当?と見上げて俺の顔を見てきた。 その疑うことを知らない純粋な瞳に見つめられて、咲希に隠しても、また変に勘繰って余計に苦しい思いをさせてしまうかもしれないと思った俺は昨日のことを謝った。 「なんで大ちゃんが謝るの?」 「いや…それは……」 「やっぱり、経験がない子は重いの?それとも面倒なの?」 何を勘違いしてるのかそんなことを言い出した。 「そんなことはない。俺は咲希が思ってるよりも咲希のことが好きだよ。でも咲希は俺にそんなことを言われて流されてるんじゃないか?やっぱり初めては好きな人と……」 そう言うと咲希は俺の胸を叩いてきた。 「なんでそんなこと言うの?大ちゃんは言うほど私のことそんなに好きじゃないんだよ。アキちゃんが言ってたもん本当に好きなら、そういう雰囲気になったら流されてもいいんじゃない?ってだから昨日覚悟したのに……」 そう言って少し睨んでいた視線を外した。 確かにそうだ、今までの俺なら誘われてタイプなら1日過ごすことも大学時代はあった。それでもこの職業についてからはトラブルを起こすことはしたくなくて慎重に恋愛しようとしていたが、結局今までちゃんとした恋愛経験もしてないからか咲希のせいにしてしまった。 「ごめんな。結局俺はヘタレだな。咲希のせいにして…咲希がこんなにも俺のこと思ってくれて覚悟してくれたのに……咲希が覚悟してくれたなら、咲希の初めてを本当に俺がもらってもいいんだな。俺も覚悟するから」 そう話したときにタイミング悪く俺のスマホが鳴った。
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