高熱

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高熱

あれからどのくらい経ったのだろう?2人が幸せそうに見えて羨ましくて…そのまま泣いていたのは覚えてるけど…気づいたら眠っていたのか…手をおでこに当てたとき違和感で布団から起き上がった。私は確かベットに顔を埋めて泣いていたはずだ、それなのにちゃんとベットに仰向けに寝ていて、布団までかけられてる。それになぜかおでこには熱さまシートが貼ってあるなんで? 「起きたか?」 「はい?」 ベットの横にあるソファーでパソコンをしていた手を止めて、大ちゃんが近づいてきた。そして持っていた体温計を出し出された。 「熱なんか…」 「いいから、測って」 そう言われて体温計を脇に入れると37.8度もあった。私、熱出したの? 「具合が悪いなら遠慮しないで言ってもいいから」 「すみません」 泣いたことを言われなくてホッとしていると 「泣くほど具合悪かったのか?今も辛いか?」 と優しい声で聞かれてまた涙が溢れそうになった。 「大丈夫です」 「骨折すると熱が出ることがあるんだ、薬飲んで寝てたほうがいい。また後で様子を見にくる。辛かったらこれ押してくれていいから」 ベットサイドにはボタンがあった。きっと押せば来てくれるんだと思って頷いた。そっとドアが閉められて私はホッと息を吐いた。 色んなことがありすぎて頭がパンクしそうだ。それでも熱のせいかだんだんと朦朧としてくる意識の中で、大ちゃんとあゆちゃんの仲良さそうな顔が浮かんできた。それをかき消すように布団を頭から被った。 ー大輔sideー ドアを閉めて俺は頭を軽く振った。 朝食の途中で顔色が悪くなった彼女は逃げ込むように部屋に入って行った。知らない家でなんて気を使うのをわかっているのに父と母もいる朝食は居心地が悪かったんだろうか?心配でそっと覗くと彼女は布団に顔を埋めて泣いていた。そんなに辛かったのだろうか?どうしてあげることもできずにその場に立ちすくしてしまった。 下手に声をかけることもできずに泣いている彼女をそのままにして、しばらくしてから見にいくと彼女はそのままの格好で寝ていた。肩を叩いても反応がないので彼女を抱き上げて布団に寝かせた。何となく体が熱いような気がして熱を測ると「やっぱり…」熱が出ていた。そんなに辛かったのか?でもあの泣き方は何かを堪えるような、辛そうな泣き方だった。何をそんなに彼女を追い詰めてしまったのだろうとドアの前にいると 「咲希ちゃん熱高いの?」 あゆみが声をかけてきた。 「あぁ…さっきよりも熱上がってきたな」 「今日、私休みだから面倒みてるよ」 「でも…」 「大輔、仕事でしょ?クライアントは大丈夫なの?」 「そうだよな。俺よりお前のほうがいいか…とりあえず行ってくる。何かあれば連絡くれればいいから。なるべく早く帰ってくるようにする」 「わかった。いってらっしゃい」 「ぐれぐれも頼むな」 「あんたも女の子の心配なんてするんだね」 「どういう意味だ」 「そんな必死になって…今まで看病しようと思った彼女いた?」 「さぁ~」 「さぁ~って何?」 「とりあえず行ってくるから頼むな」 後ろでまだ何か言っているあゆみを残し職場に向かった。咲希ちゃんは大丈夫だろうか?あとで先生に聞きにいくか。 「先生、昨日の彼女大丈夫でしたか?」 「伊川さん助かったよ。ありがとう」 「いえ私は何も…先生、今日予定の足立さん10分程遅れると先ほど電話がありました」 「わかりました」 昨日、伊川さんが繋ぎ止めてくれなかったら咲希ちゃんとわからずにいたかもしれない。とりあえずいつものように俺は淡々と仕事をこなしていた。もうすぐお昼になる頃、親父が顔を出した。 「少しいいか?プライベートだ」 「あぁ…」 「あの子、咲希ちゃんって言ったけど大丈夫か?」 「まだ何も聞けてない。骨折のせいで熱は出てるが」 「お前のこれからの予定は?」 「夕方に1件アポが入ってるけど…」 「俺が代わりに引き受けるからお前は早く帰ってやれ」 「いや、あゆみも母さんもいるから大丈夫だろ」 「お前の問題だよ」 「俺?」 「なんか朝から心ここにあらずな感じで仕事してるだろ。そんなに心配なら帰った方がいい」 「そんなことはない」 「彼女ともゆっくり話した方がいいだろう。どんな事情があるにせよ、守ってあげたい子なら手を差し伸ばしてあげなさい」 「親父…ありがとう」 「たまには…な」 そう言って笑っていってしまった。 咲希ちゃんのことが心配なのは彼女の過去を知っているからなのか…それとも違う感情を抱いた? いやいや、いくつ離れてる。こんな歳が離れた叔父さんは咲希ちゃんには似合わない。もっといい人がいるだろう。そう考えると胸の奥が痛んだ気がしたが気にしないふりをしてあゆみに電話をかけた。 咲希ちゃんはだいぶ熱が上がってきて苦しそうだと教えてくれた。俺は帰る前に椎名先生のところに行って彼女の具合を伝えた。数日で良くなるから水分だけは取るようにと…よくならないようなら診せに来てと言われて家に帰った。 「ただいま」 「お父さんから電話あったわよ」 「あゆみは?」 「帰ったわよ。彼女熱も高くてかなり苦しそうでね。一回着替えさせたんだけど」 「水分は?」 「取ってるわよ。寝てるから静かにね」 俺はそっと部屋に入った。穏やかな寝息を立てている彼女が見えて堪らずに俺は抱きしめてしまった。彼女を離したくない。側にいたいと思ってしまった。
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