あの日の約束

「和音のせいで止まれない」
「んっ」

　肌をまさぐられ、寝間着を脱がされる。優幸も身に着けるものを脱ぎ、素肌を重ね合わせる。

「和音、すげえ可愛い」

　首や鎖骨にキスが落ちてきて、肌が粟立つ。淡い感覚に身を震わせる和音を、熱い瞳が捕まえる。身じろぎひとつさえ見られていて恥ずかしくなってしまう。

「あっ……やだ、そんなとこ」

　胸の突起を口に含まれ、くすぐったくて身体を捩る。舌で転がされているうちに徐々に鈍い快感が生まれて腰に響く。軽く歯を立てられて、つま先に力を込める。芯を持った尖りを執拗に責められてしまい、変な声が次々漏れる。

「やだ……恥ずかしいよ」
「恥ずかしくない。可愛い」

　大きな手が肌の上を滑り、下腹部に触れる。太腿の間を撫でながら優しく唇が重なった。

「そんな緊張するなよ。俺とこうなること、想像しなかった？」
「んっ……あ、っ」
「俺はしたよ。想像の中で数えきれないくらい和音を抱いた」
「ん、ふぅ……っ」

　そんなことを言われたら欲望が沸き上がってしまう。情熱を孕むキスにくらくらしながら優幸にしがみつく。両脚を開かれ、内腿に唇が触れると、自分でも信じられないくらい甘い声があがった。張り詰めた昂ぶりに長い指が絡み、溢れる雫をすくいとられる。濡れた音をまとって手が上下して、耳から感じてしまう。

「あっ……優幸さん……っ、やだ、気持ちいい……」
「気持ちいいなら嫌じゃないだろ」
「んっ……あ、気持ちいい……」

　巧みに扱かれあっという間に限界へと昇ってしまう。和音が吐き出した白濁を優幸はうっとりと見つめる。

「和音にずっと触りたかった」

　奥まった部分を指がなぞる。円を描くように指の腹で撫でられてじくじくと身体が熱くなっていく。指先が内側へ忍び込むと、違和感に眉をひそめた。眉間にキスをされ、強張った身体をほぐすように頬や鼻の先、顎や耳にキスが落ちてきた。

「和音……」

　低く甘い声で囁かれて、ぞくぞくと背筋に快感が駆けあがる。ただ名前を呼ばれただけなのに、おおげさなほどに心も身体も反応してしまう。丁寧に窄まりをほぐす指の動きに意識が集中すればするほど羞恥が襲ってくる。

「真っ赤だな。おいしそう」

　頬を舐められ、ちゅっと啄むようにキスをされる。思いきって和音も優幸の頬を舐めると目をしばたたかせた優幸が口もとを綻ばせる。和音の大好きな笑顔。
　指が増やされ、中を探られる。じわじわと違和感以外のものが湧き起こる。ある一点を指で撫でられたら、言いようのない快感がつま先から頭まで激しく駆け抜けた。

「優幸さん……そこ、だめ、へん……」
「ここか？」
「ああっ、あ、はっ……あっ」

　深い快感が渦巻き、和音を呑み込んでいく。未知の感覚に恐怖さえ覚えると優幸がなだめるように繰り返しキスをくれた。

「怖いか？」
「……大丈夫……でも、もっとキスして」

　甘く呼吸を絡め取られ、上顎や歯茎を舌でなぞられる。指は同じところを撫で、そのたびにくぐもった喘ぎが零れるけれど、すべて優幸に呑み込まれた。
　力が抜けた和音の脚の間に優幸が身体を入れる。

「つらかったら言えよ」
「うん……」

　熱い塊が窄まりをゆっくりと押し開く。不思議と緊張より充足感のほうが大きかった。優幸とひとつになっていることがとても嬉しくてその背に腕をまわしてきゅっと力を込める。

「好きだよ、和音」
「ん……ぁ、ふっ……んぅ」

　大きな舌が口の中をかきまわし、思考がぼんやりする。
　優幸の下腹部が尻に触れ、全部入ったのだろうかと息をつくと抱きしめられた。

「こんな幸せでいいのかな」
「優幸さん……？」
「和音の中に俺がいるなんて、夢としか思えない」

　泣き出しそうな顔で笑う優幸に、せつなく胸が疼く。こんなに想ってくれていたなんて知らなかった。身体以上に気持ちが繋がる。余すところなく和音を知ってほしくておずおずと口づけて果敢に自ら舌を絡める。拙い動きをしっかりと受け止めてくれる優幸に、和音のほうが夢を見ているようだ。

「動いていいか？」
「うん……優幸さんをいっぱい感じさせて」

　優幸が腰を動かすと、内側がかき乱される。内壁を擦られ、気持ちよくて仕方がない。

「和音の声、すげえ可愛い」
「ああっ……優幸さん……、あっ、あ、は……あっ……」

　荒い呼吸を重ね合わせるようにキスを交わし、互いの体温を知る。汗ばんだ肌はしっとりと吸いついて、そのまま本当にひとつになれそうだ。揺さぶられるたびに甘い快感が充満する。昂ぶりは溢れた雫でしとどになり、零れ伝ったものがシーツにしみていくのがわかった。
　シーツを乱しながらしどけなく喘ぐ和音を優幸が追い詰める。最奥を穿たれ背がしなって喉が仰け反る。喉仏を舐められ、ぞわりと身体の奥が熱を持った。

「好きだよ、和音……好きだ」

　優幸の囁きが魔法のように和音をどんどん高めていく。繰り返される愛の言葉に、幸せなのになぜか胸が締めつけられた。

「……優幸さんのお嫁さんにしてくれる……？」

　髪を撫でながら聞くと、優幸はこれ以上ないくらい優しく微笑んで和音に口づけた。

「和音しか欲しくない」
「ああっ、待って、それだめ……っ」

　奥まで貫きながら昂ぶりを扱かれ、腰が浮く。強弱をつけた手戯に酔う間もなく、和音は欲望を吐き出した。追いかけるように優幸も和音の中で達する。脈打つ熱を感じ、和音は優幸の腰に脚を絡める。

「動けないだろ」
「動かないで……まだ抜かないで」

　ずっと中にいてほしい、と言うと優幸は嬉しそうにはにかむ。

「じゃあずっとこうしていようか。部屋にこもって、一生抱き合って」
「それいいね」
「いいだろ」

　くだらない冗談も特別に感じて、額を合わせてくすくすとふたりで笑う。優幸の唇を舐めると、そのまま唇を塞がれた。ぽうっとなってしまうほど気持ちいいキスに瞼をおろす。
　あの日の約束は、きちんと将来に繋がっていた。

「優幸さん、ありがとう」
「なにが？」
「なんだろうね？」

　和音と出会ってくれたあの日からずっとそばにいてくれた優幸に、たくさんの愛と感謝を伝えたい。

（終）