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魔女の呪い
ある夜のこと。トーゴが友達のフロウリーと魔女の森にいたずらをしに行った。フロウリーは悪友で、幼いトーゴを誘い楽しんでいた。トーゴは八歳で、まだ世のことがわかっていない。この世が乱世で魔法や不可思議なものであふれているのも、ぼんやりと知っているだけだった。
「トーゴ。お前は強いんじゃなかったのか」
強いというのは噂好きのナオキが吹聴したことだった。トーゴ自身、臆病だった。
「フロウリーさん。それはない」
「ビビってんのか? ビビリだ。こいつ。泣き虫の女野郎」
そういわれても、トーゴはうつむくしかなかった。
森をずんずん進むフロウリーに続き、背筋が凍りつくような感覚が出てきた。
「もう、帰りましょう」
「トーゴ。見えるか。あの小屋。きっと魔女のすみかだ。お前、そこにあるほうきの後ろで窓を割れ」
「嫌ですよ」
「おまっ。もう遊んでやんねえ。俺帰るぞ。道は知らねえからな」
「待ってください。わかりました」
トーゴはその、黒く、気味の悪い小屋の窓をほうきの裏で振り下ろした。
窓は粉々に砕け散った。
「やった。やりやがった。トーゴが怒ったぞ!」
そういい、フロウリーはそそくさと逃げた。
「うわー!!」
トーゴはパニックになり、足がすくんで逃げられない。小屋からは変な薬の匂いがもれてきた。
彼は顔が真っ青で、唇を噛み締めた。悔しいのだ。フロウリーなんかに付き合った自分が。
「おやおや。まだ一匹いたのかい」
背後から声をかけられた。
大柄で初老のふくよかな魔女だった。
その手にあるのはー
「それ…」
「ああ、このジャリンコかい。穴という穴に芋虫を詰め込んで絞め殺したよ」
「あああああ!!」
「あんたはそうだね。安心しな」
「えっ!?」
「とはいっても人んちの窓を割ったんだ。これくらいにしようか」
トーゴの体に赤い模様が広がった。
それは真紅の血となり、彼もふくよかになった。
「うあぁ!」
「さあ、坊やはおねんねし。今夜はぐっすり眠れるよ。今宵は満月。ボーイフレンドの狼男が待っているんでね。さあおいき」
翌年トーゴは三十歳になった。どうやら血まみれになるだけでなく、年を取るのも早くなるようだ。
それで良い。悪い人生なら早く終わればいい。
だが、と、トーゴは思う。
人の不運だけで人生を諦めて生まれた意味があるのか?
血だるまトーゴは近隣諸国に恐れられている。
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